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第59話
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藤原家から戻ってきた大悟と昼食を取るため、シラサカは自宅代わりとなったホテルへ向かう。ルームサービスでシーフードパスタとサラダとコーヒーを注文すると、シラサカは大悟をぎゅっと抱きしめた。
「K、苦しいよ」
「カズミんとこ行ってから、ぼんやりしてるから。俺といるのに、何考えてんの?」
「こういうことはKに話しても無駄だって、レイが言ってたから」
「なんだ、それ。秘密はダメだよ、ハニー。ちゃんと話して」
「例の脅迫状のこと」
「ああ、それか」
一気にトーンダウンしたが、話せと言ったのはシラサカなので、ここはつきあうことにする。
「あの脅迫状は、死んだ藤井慶が出したものだろ」
「それが違ったんだよ。あれはボス宛の脅迫状で、草薙さんはそのコピーを持ってただけなんだ」
「ボスが狙われてるってことか? そりゃあ、どっかで恨みぐらい買ってるだろうけど、手を出す輩はいないと思うぜ」
「でも、そういうことなんだもん!」
大悟は顔を上げ、頬を膨らませ、不服を訴える。可愛らしくて仕方なくて、シラサカはまたまたぎゅっと抱きしめるのだった。
「といってもなぁ、ボスに手を出そうなんて考えるバカはほぼ皆無だし」
「ほぼってことは、いるってことじゃん!」
「じゃあ、この際ボスが脅されてたとして、Fの無念って誰のことになるの?」
そこは考えていなかったのか、大悟はそれはといって口ごもる。くるくると変わる表情を目にしているだけで、シラサカの中にむくむくと欲情が湧き上がってくる。それを制するように、インターホンが鳴って、ルームサービスがやってきた。
食事をしながらも、大悟は一生懸命考えていた。Fの無念ってなんだろ、誰だろうと呟いている。
「考えるのは後にしてさ、食事に集中しようよ」
困った顔も魅力的ではあるが、やはり大悟には笑顔が似合う。
「わかり次第、レイに報告しなきゃだから」
自分が側にいるのに、他のこと、ましてやレイの名前が出てくるなんて許せない。湧き上がる嫉妬心を、ひとまずシーフードパスタで抑え込むシラサカ。
ハニーはまだ高校生なんだから、そんなに仕事させなくてもいいのに。
レイに文句を言えば、情報屋の領域に口を出すな、私情を挟みすぎだと言われかねないので、黙っておくことにする。
そういえば、レイの奴、前にこんなこと言ってなかったっけ。
(故人のFなら、俺達の近くにもいただろうが)
「……まさか、冬月さんのことなのか?」
何気なく呟いたシラサカの言葉に、大悟は目を輝かせた。
「そっか。ボスのお父さん、浅田冬月さんのFなんだ!? やっぱりKは凄いや!」
凄いも何も、レイが言っていたことを思い出しただけなのだが、褒められると悪い気はしない。
「いや、それほどでも」
「だとすると、ボスのお父さんの無念って何?」
大悟に問いかけられたが、さすがにそこまではわからない。何よりシラサカは始末屋であり、そう言った話は領域外である。
「よし、最初から考え直そう!」
シーフードパスタとサラダを急いで食べた大悟は、花村に渡された脅迫状をテーブルに置き、じっと見つめた。真剣に考える姿もこれまた大変可愛らしく、昼間だというのに、大悟が食べたくて仕方がなくなる。彼と同じようにパスタとサラダを食べ終えたシラサカは、わざと隣に座り、腰に手を回した。
「ねえ、ハニー、せっかくふたりきりなんだから、もっとくっつこうよ」
「この謎が解けたらね」
「謎が解けたら、もっとくっついてくれる?」
「うん、いいよ」
大悟が適当に返事をしていることはわかっていたが、こうなると、俄然張り切るシラサカである。というわけで、改めて脅迫状を読み直してみる。
おまえの罪は、おまえの死を持ってしか償えない。今度は手加減しない、Fの無念を晴らすためにも。
「まずこの罪ってやつが、何を示すのかだな」
「ボスの死を持ってしか償えない罪って、余程の事だよね。今度は手加減しないって文章からして、そういうことをしたけど失敗したってことだよね」
「冬月さんの無念か。無念って意味とは違うかもだけど、あの人、病気で亡くなったんだけど、ボスと草薙と藤井英介のことをやたら心配してたんだよな」
「Kは冬月さんに会ったことあるの!?」
大悟は目を輝かせて、体を寄せてきた。単にシラサカがベタベタしているからなのだが、嬉しくないわけはなく、そのまま右頬にチュッとキスをする。
「うん、あるよ」
今度は左頬にキスをして、そっと抱きしめる。脅迫状のことで頭がいっぱいの大悟は、シラサカがじわじわと攻めていることに気づいていない。
「確か、ボスのことを信じて側にいてくれって言ってたっけ。ボスは、草薙や藤井英介を不幸にしたことを一生かけて償うつもりでいるとか」
「ちょっとK、今の話、初耳だよ!?」
大悟がよりいっそう顔を近づけてきたので、シラサカはキスしようとしたのだが……
「待って、今それどころじゃないから!?」
真顔でスルーされた。シラサカは大悟を食べることしか頭にないので、拒絶されると堪える。
「草薙さんと英介さんを不幸にした? それがボスの罪?」
「まあ裏の世界にいる人間が、真逆の立場になるってのは、確かに罪になるかもな」
なんとなく発したシラサカの言葉に、大悟はそれだよ!と言って食いついた。
「一時的とはいえ、警察官になったこと自体が罪なんだよ。本当はボスを殺したかった。もしくは殺そうとしたけど、出来なかった。だから、先生や草薙さんや英介さんを拉致した。彼らを不幸にした罪をボスに植え付けるために!? でも、それって誰が?」
脅迫状の秘密を紐解くことに夢中になっていく大悟。それもこれも、自分が発した言葉がきっかけになっているため、シラサカの気持ちは複雑だった。
あらら、昼休み、とっくに終わってんじゃん。
何気なく時計を見れば、結構な時間が経過していた。シラサカは、大悟を連れて車でホテルまでやってきた。それだけでかなり時間を食っているのだ。
まあいいか、ちょっとぐらい遅れても。
そうこうするうちに、レイから電話がかかってきた。出ないとしつこくかかってくるので、ここは出ておくことにする。
『おいこら、いつまで昼休憩してやがる、さっさと戻ってきやがれ!』
レイに一喝され、シラサカの企みは脆くも崩れ去り、ふたりきりの昼休みは、終わりを告げたのだった。
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