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第60話
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「謎解きねえ。そういうのは、僕やサカさん向きじゃないからなぁ」
昼休みの時間を一時間以上オーバーしたペナルティとして、Kはレイの命令で、不要になった大量の書類をシュレッダーで粉砕するという単純作業をさせられていた。
「でも、この謎解きが終わらないと、Kは永遠にシュレッダー作業なんだよ」
大悟もマキも他の人間も、手を貸すことは許されていない。Kは別室に閉じ込められ、レイの監視付きという徹底ぶりである。ちなみに大悟に科せられたペナルティは、脅迫状の謎解きだった。それがわかり次第、Kのシュレッダー作業も終わりを迎えることになっている。
「Fがボスのお父さんである浅田冬月さんだってことはわかったんだけど、彼の無念を晴らすってどういう意味だろ? ボスはFに無念なんかないって言ってたし。何より、脅迫状がボス宛だってわかってたのに、なんで草薙さんは怪我をしたり、行方を眩ませてるのかも、全然わからないし」
こんな感じで、大悟の頭の中は疑問符だらけである。たまらず机に突っ伏した。
「ボスは狙われてることを僕達に黙ってたんでしょ? それって、僕らが手が出せない領域だからじゃないのかな」
「手が出せない領域?」
マキの言葉に反応し、大悟は上体を起こした。
「ハナムラが旧財閥浅田家の闇の組織だって話は聞いてるよね。浅田の直系のひとりが花村の姓を名乗り、表と裏を牛耳るって。浅田に関する問題は、浅田の血を持つ人間以外は手出し不要の領域なんだ」
そこまで徹底されているとは思わず、大悟は驚き、目を丸くした。
「僕らは依頼主から報酬と引き換えに仕事を請け負うんだけど、ハナムラコーポレーションの筆頭株主に限っては、僕らを好きに動かす権利がある。彼らの命令であれば、ほいほい動けちゃう」
「その筆頭株主って?」
「現在の浅田の当主であり、ボスのお兄さんである浅田相次郎(あさだそうじろう)さんと金田麻百合(かねだまゆり)さんだよ。金田さんは、相次郎さんの養女の浅田花梨(あさだかりん)さんの双子の姉なんだ。彼女の遺言で、金田さんは株主になったってわけ」
「つまり、ボスのお兄さんとその人だけがハナムラを好きに使えるってこと?」
「そうだよ。花梨さんが亡くなったときは色々大変だったよぉ。ハナムラを好きに使えるってことは、自由自在に人を殺せるってことじゃん。その権利を巡って、浅田の親戚連中が金田さんをバラそうとしたりしてさ。だいぶ話が逸れちゃったけど、浅田に関する問題なら、基本的に僕らは黙って見ているしかないんだ」
マキの言う通りだとすれば、この脅迫状を花村に送った人物は、浅田の人間ということになる。
「こういう話はさ、僕よりヤスオカさんに聞いた方が、色々教えてくれると思うよ」
ヤスオカとは、レイの以前に情報屋のリーダーだった人物である。花村や草薙、松田とも友人だと聞いているが、大悟は全く面識がない。
「どうしたらその人に会えるの?」
「サカさんに言えば、連絡取れると思うよ。カナカナのことを探し当てたのも、ヤスオカさんだったみたいだし」
脅迫状の謎解きに関して、ひとりでしろとは言われていない。思い立ったら行動あるのみと、大悟はレイに電話をかけたが、多忙なのか留守電になっていたため、こんなメッセージを残した。
「脅迫状の謎を解くために、ヤスオカさんに会いに行ってくる。俺ひとりじゃ無理だから、Kにも手伝ってもらうね。そういうわけだから、Kの作業は一旦中断するね。帰ってきたら俺も手伝うし。以上、カナリアから経過報告でした」
すぐさま大悟はKが閉じ込められている別室(会議室)に向かった。
扉には電子錠がかけられていた。普通の鍵なら無理だが、これならなんとかなる。持ち出したノートパソコンを使い、レイが構築したハナムラコーポレーションのセキュリティシステムに入り込み、暗証番号を入手する。あっという間に解錠し、大悟は扉を開け放ち、叫んだ。
「K、大丈夫!?」
「あ、お疲れさまです、カナリアさん」
Kしかいないはずのその部屋には、顔見知りの社員がいた。彼は書類を次々とシュレッダーで粉砕していた。
「あの、Kは?」
「シュレッダーのゴミがいっぱいになったので、捨てに行きましたけど?」
嫌な予感がした。Kのことだから、このまま逃げ出しかねない。そんなことをすれば、レイの怒りが増すだけである。
「うぃーす。……おおっ、ハニーじゃん! 謎解き終わった?」
大悟の予想を覆し、Kは帰ってきた。どうやら真面目にやっていたようである。
「いや、謎解きは終わってないんだけど。Kはヤスオカさんと仲良しなんだよね? 今すぐ会える?」
「向こうの都合が良ければ、たぶん」
「レイには伝言残したから、今すぐ連れて行って。彼に話を聞けば、謎が解けるかもしれないから!」
「オーケー、オーケー。そういうわけだから、後よろしく」
Kは目を輝かせ、大悟を連れて部屋を出て行った。
「いいの、あの人にやらせて」
「うん。ずっとやってもらってたから」
「ええっ、レイにバレたら怒られるよ!?」
「真面目にやってたんだけど、途中で動かなくなってさ。レイがあいつを寄越したんだよ。あいつがやるとすいすい進むし、やってくれるっていうからお願いした」
Kが触るとパソコンが壊れるという噂は聞いていたが、シュレッダーとの相性まで悪いとは。
Kの体には、電気でも走ってんのかな。
単にゴミ受けがいっぱいになって動かなくなっただけで、Kのせいではなかったことがわかるのは、ずっと後のことである。
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