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第62話
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ヤスオカの自宅を辞したとき、既に日は暮れていた。
「ダメだよ、ハニー、明日は学校あるんだから」
「でも、脅迫状の謎を解いたら、レイに連絡しないとだし!?」
車中、会社に戻りたい大悟と、自宅(ホテル)に戻りたいKとの間で小競り合いが起きていた。
「電話すればいいことでしょ。ハニーの就業時間は終わってる」
「けど!?」
「ハニーが高校生である限り、こっちの仕事はバイト扱いなの。よって、残業は認めません」
Kに保護者のように言い渡され、大悟は両頬を膨らませて不服を訴える。信号待ちで停まった際、可愛いと言ってキスされた。
「だから、外だってば!?」
「誰も見てないって。今日の晩御飯、何にする?」
「晩御飯の前に、ここでレイに電話する」
「オーケー、オーケー」
Kは鼻歌混じりに運転するだけ。そんな彼に苛立ちながら、大悟は電話をかけた。2コールの後、開口一番、わかったかとレイに言い放たれる。
「わかったようでわからない」
不機嫌モード全開で言い放つ大悟。
『なら、まずわかったことを言え』
「この脅迫状はボス宛だってこと。送り主は、以前ハナムラのボスだったけど解任された花村和臣さんと思われる。ボスの罪は裏の人間なのに警察官になったこと。それを死んで償ってほしいと思っている」
『上出来だ。他は?』
「ボスの父親の浅田冬月さんに邪魔されたけど、今は邪魔者はいない。わかってるのはここまで」
『ほとんどわかってるじゃねえか。Fの無念について、ヤッサンに聞かなかったのか?』
レイはヤスオカを、ヤッサンと呼ぶらしい。
「聞いたよ、聞いたけど……もう少し生きたかったことじゃないかって。生きてボスを見守っていたかったんじゃないかって」
『その前の文章と組合せれば、答えは出ると思うが』
「何回も考えてるけど、全然わかんないよ。死んで償えって言ってるのに、生きたかったことが無念で、それを晴らすって」
レイから失望と取れる溜息が聞こえた後、それを打ち消すように、そうかと呟いた。
『おまえが高校生だということを忘れていたな。わからなくて当然か』
「どうせ俺は、バイト扱いですよ」
Kに言われたことが身に染みて、大悟はまた両頬を膨らませて拗ねる。子供じみているとわかっているが、精一杯意地を張った。
『バイト扱いにこんなことさせるかよ。言葉の意味に拘りすぎ。全文を通して、送り主の性格も含めて考えろ。ただ、おまえは和臣に会ったことがないし、奴のひねくれ具合を知らないから無理もない。この脅迫状は、ボスの罪は死んで償うしかありえない。邪魔者だった冬月さんと同じ場所へ送ってやるってことだよ』
「そういうことなの!?」
呆気なく解いたレイに、大悟は感動していた。自分は言葉をひとつずつ追って、その意味ばかりに気を取られていた。全文を考えるという目線はなかったから。
「ということは、すごくねじ曲がって、ひねくれた人なんだね」
『だからクソジジイなんだよ。ここまで解いたこと、ヤッサンのところまで行ったことは褒めてやる。おまえが望むなら、その先を見てみるか?』
最後の言葉はトーンが変わっていた。危険を示す緊張に満ちている。
『今、車内だろ。通信機のスイッチを入れろ』
勝手知ったるで、大悟はKの車に搭載されている通信機のスイッチをオンにする。途端に、上機嫌だったKの表情が曇る。
「おまえまでハニーの味方するのかよ」
『そういうことじゃない。和臣が、アポイント無しで面会を求めてきた』
Kは顔色を変え、すぐさま路肩に車を停め、ハザードランプを点灯させた。
「なんでそんなことになってんだよ」
『学校終わりのサユリと交代する直前、話がきたんだよ。ボスは了承した。俺は彼女と交代して、会社に戻ってきたところだよ』
「この時間から面会って、危なくねえのかよ」
『念のためだ。シラサカ、ボスの側についてくれるか?』
「そういうことなら受ける。先にハニーをホテルに送り届けて──」
「俺も一緒に行っていい?」
タイミングを見計らって、大悟は割り込んだ。通信機のスイッチを入れる直前、その先を見てみるかとレイは言った。あれはついてきてもいいという意味だったはずだから。
レイがいいと言ってくれたのなら、少しでも俺を認めてくれたのなら、先に進みたい。
「却下。そんな危ないこと、認めるわけないでしょ」
Kは反対した。彼は大悟を心配して、なるべく危険から遠ざけてくれている。
『カナリアがどうしても行きたいというのなら、情報屋のリーダーとして俺が許可する』
レイが大悟の意見に賛同したことに、Kはひどく驚き、声を荒げた。
「ふざけんな、和臣になんかに会わせたら、何されるかわかんねえだろうが!?」
『おまえはハナムラ最強の始末屋で、カナリアのパートナーだろうが。ボスがいるから護れないとかいうんじゃねえだろうな』
Kを挑発するレイ。通信機越しでもふたりの間に火花が散っていることがわかる。
『いい加減認めろ。カナリアはハナムラの人間で、俺の部下でもあるんだ。確かに今は高校生だが、それはレプリカに過ぎない』
Kの気持ちは有り難い。けれど、護られてばかりは嫌だ。まだまだ胸を張って隣に立てるとはいえないし、その道程は遠く険しいものだろう。
「Kがいてくれるなら、何があっても、俺は平気だよ」
それでも大悟は、Kと同じ場所に立って、彼と同じ想いを共有したい。例えそれが、目を背けたくなるような哀しい現実であったとしても。
「ハニーは、どんどん俺から離れていっちまうんだな……」
ひどく寂しそうにKは言った。
「違うよ、K。近づいてるんだよ、俺もKと同じ血と闇の中で生きる人間になるために」
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