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第66話
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草薙を救ってほしい。花村の意外な申し出に、レイとKは顔を見合わせた。
「あのとき犠牲になったのは英介だけじゃない、哲平もだ。知らないと嘘をついたが、本当は知っていたよ。私のせいで、二人が殺し合うことを強要され、英介は哲平ではなく、自ら命を絶ったことを」
あまりに酷い現実に、大悟の胸は締めつけられた。
「哲平は英介の亡骸に縋って、泣き喚いた。生き残った哲平は自らを責め続け、絶望し、死ぬことしか考えられなくなった。二人の人生を狂わせた私も同じ気持ちだった。そんな私達を見かねて、父は復讐という名の希望を与えた。証拠は無くとも和臣がやったことは明らかだった。彼を倒す為の力をつけ、生きるようにと言い含めたのだ」
花村はこみ上げる感情を押し殺しながら、淡々と話した。
「私達は前を向いた。復讐なんてバカげたことだとわかっていても、何かに縋らなければ、生きていけなかった。それからは感情を捨て、裏社会の人間として生きていくことにした。この手を血で染め上げ、死神と忌み嫌われても、復讐のために生きると決めていたのだが……」
一旦言葉を切ると、花村は懐かしそうな笑みを浮かべた。K、レイ、マキを見やり、こう続けた。
「ドイツ警察の特殊部隊GSG-9に属していた友人の子供を助け、殺人マシーンを作るべく行った実験の後始末に失敗し、二人の子供を組織に引き入れてしまった」
「後悔していますか、俺達と出会ったことを」
レイの問いかけに、花村は即座に首を横に振った。
「おまえ達との出会いがあったから、私は救われたのだよ」
人の命は平等だ。どんな悪人であっても生きる権利がある。だが、Kと出会い、レイ達と深く関わるようになってから、そんな当たり前のことが正義だと思えなくなっていた。
自分の両親の事件、今回の花村達の復讐。そこにはあるのは、警察では決して裁けない深い闇。
そっか。俺もとっくに向こう側の人間なんだ。
「英介の甥に刺され、そそのかしたのが和臣だとわかり、哲平は和臣を殺すことしか考えられなくなった。彼を止めるべく、シラサカの家に留まらせたが、その情報を自ら流した。危険だからと、秘密裏にここに留まらせていたが、それが更なる悲劇を生んでしまうとは」
「お言葉ですが、俺達は警察の人間じゃありません。草薙を止められるかどうかは……」
Kが言うように、草薙は和臣に被さり、彼の額に銃口をあてがっていた。
「ダメだよ、草薙さん、それ以上、手を出しちゃ!?」
大悟は一歩前に出て叫ぶ。その声に草薙がぴくりと反応する。自分達は向こう側でも、草薙は違う。ハナムラと繋がっていても、彼は警察官のトップという肩書きがあるのだから。
「江藤大悟君、君は優しくて強い子だ。そんな君を向こう側の世界へ追いやってしまったこと、申し訳なく思っているよ」
「違うよ、草薙さん、これは俺が自ら望んでしたことだよ」
Kに出会って、彼に助けてもらって、そこでサヨナラするはずだった。だが死神は大悟に言った、魂を売ってでも彼を手に入れたいかと。
「Kと一緒にいたかった、それだけぐらい大好きだってことだよ!?」
同じ場所に立てば、一緒に生きていける。性別も年の差も関係なくなる。
「俺もだよ。ハニーのこと、世界で一番愛してるからね」
後ろからKがぎゅっと抱きしめる。この手と温もりがあるならば、大悟はどこででも生きていける。
「おまえら、いちゃつくなら外でやれ!」
レイから厳しい声が飛んで、大悟は小さくなる。草薙を説得するはずが、いつしかKへの想いを叫んでいたから。
「私を殺すために、藤井君をそそのかして、彼を悪の道へと引きずり込んだ」
大悟の声に反応した草薙だったが、それでも和臣から離れることはなかった。
「何の話だ? 証拠はどこにある?」
和臣らニヤリと笑うだけだった。
「ないさ。藤井君は、おまえの刺客に殺された。彼は私が英介を殺したことだけじゃなく、英介自身のことも憎んでいた。英介が警察官にならなければ、自分はこうならなかった。警視総監を殺そうなんて思いもしなかった。父親から敵討ちのために強要されて警察官になったが、本当はなりたくなんてなかったとな!」
英介の死によって、様々な人間が影響を受けている。不幸な連鎖というべきだろう。
「だから言った。私を殺すのはかまわない。だが、英介の名を汚すことは許さないとね」
その言葉で藤井慶は思いとどまった。人を殺めずに済んだのに、結局殺されてしまった。
「甘ったるくて反吐が出る。そんな男は死んで当然だ」
和臣はそれがどうしたと言わんばかりで、草薙を蔑むように見た。
「おまえの性根は腐っている。これ以上犠牲を出してはならない。死ね、花村和臣!?」
カチリという音がして、拳銃の安全装置が外される。もう誰も止められない。大悟が顔を背けたとき、靴音がして、目の前を誰かが駆け抜けた。
「させるかよ」
間一髪のところで、誰かが草薙の拳銃を素手で掴んだ。
「あんたの苦しみの半分は、俺が背負ってんだぜ」
言葉に驚愕し、草薙は振り向いた。そこにいたのは彼の息子である藤堂駆だった。
「離れてくれ、藤堂君」
草薙は藤堂を振り切ろうとするが、彼は手を離そうとしなかった。
「離れろと言っているんだ!?」
「俺は警視庁の刑事であり、あんたの血を分けた息子だ。止める権利がある!」
大悟の言葉に耳を貸さなかった草薙が止まった。藤堂は、草薙を和臣から引き剥がした。
「その苦しみの半分も、俺が引き取ってやる。だから、あんたは罪を犯すな」
「なぜ、その言葉を……」
「ずっと背負い続けるんだって、母さん言ってた。けど、さすがに天国まで持っていけねえだろ。だから、役目は俺が引き継いだってわけ」
草薙は唇を噛みしめ、涙を堪えているようだった。右手に握られていた拳銃を藤堂が手にする。どうやら草薙を止められたようである。
「おまえに、息子が、いたとはな」
草薙のことに夢中になっていた間、和臣は体勢を立て直していた。どこに隠し持っていたのか、右手に拳銃が握られていた。
「全員、まとめて、殺してやる!?」
薬の影響か、和臣の体の震えは止まらない。このまま引き金を弾けば、弾がどこへ飛んでいくかわからない。
「シラサカ!?」
レイが叫ぶと同時に、Kは拳銃を構え、引き金を弾こうとしたが……
「浅田の人間に銃口を向けて、タダで済むと思っているのか!?」
和臣の叫びを受け、Kは動きを止めた。レイは小さく舌打ちした。さすがの花村も、和臣の殺害命令を出すことは出来ないのか、沈黙している。
「そうだ、おまえ達はただの人殺し。我々の言うとおりに、人を殺していればいいんだよ!?」
そう言うと、和臣は高らかに笑った。
確かに人を殺してきた。でもそれはあなた達のためじゃないの?
悔しい気持ちでいっぱいになったとき、大悟の脳裏にある言葉が蘇った。
(カナカナもついていくんだよね。だったらこれ、僕からのプレゼント)
(お守りだよ。弾は一発だけ入れてる)
大悟のパーカーのポケットには、マキから預かった拳銃がある。
(これぐらいで怯えるとは、まだまだだな)
(彼はまだ子供ですから)
そう、自分はまだ子供。ハナムラの人間だけど、残業すらさせてもらえないバイト扱い。
「ちょっと、ハニー、何やってんの!?」
大悟はKの前に出て、ポケットの中に入れていた拳銃を取り出して構えた。
愛するKのため、俺を迎え入れてくれた皆のために出来ること、それはたったひとつ。
「これで、俺もKと同じになれるかな」
そう言ってすぐ、大悟は拳銃の引き金を弾いた。
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