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第67話
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自分の目の前で拳銃をかまえ、大悟は引き金を弾いた。その姿は、シラサカにとって大きな衝撃だった。
何してんだ、俺は、ハニーに何させてんだよ!?
「あの子供を殺せ!?」
憎悪に満ちた和臣の声で、シラサカは我に返る。彼はこちらを睨みつけていた。左肩が赤く染まってることからして、当たったのはここらしい。
「あれは、浅田の人間に傷を負わせた極悪人だ!?」
こんな状況ではあるのだが、どっちがだと叫びたい衝動に駆られた。それはシラサカだけではなかったようで、和臣側についていた男達も困惑していた。
それにしても、二回とも当たるってことはまぐれじゃねえってことだな。
初回は発射の衝撃で倒れそうになったが、今度はふらついただけで済んだ。シラサカは背後から大悟の体をぎゅっと抱きしめ、耳元でこう囁いた。
「今夜はお仕置き決定な」
「ええっ!?」
「本当にハニーは、想像の斜め上をいくんだから」
自分達は浅田という柵に捕らわれていた。だが、あの銃声で目が覚めた。ハナムラに反旗を翻す者には罰を与える。和臣はシラサカやレイだけじゃなく、大悟も殺せと言った。もはや立派な処分対象だ。
「命令が聞けないのか!? 私はハナムラの──」
「ハナムラのボスは私ですよ、和臣さん」
声を遮り、花村が和臣の側にやってきた。
「しかも、子供のやったことに腹を立てるなんて、大人として恥ずかしくありませんかね」
「ただの子供ではない。あれはカナリア、ハナムラの人間ではないか!?」
和臣の体はもう震えていなかった。言葉もはっきり話せている。銃弾を受けたことで薬の効果が断ち切られたのか、ひどく興奮していた。
「もうダメじゃん、カナカナ」
そこへマキが甘えた声で割り込む。
「練習するのはまだ早いって言ったのに、僕の拳銃、勝手に持ち出してさぁ」
わざとらしく言った後、シラサカに話を合わせるよう、目で訴えかけてきた。
「それにしてもだよぉ、こんな近距離で外しちゃうなんて、カナカナは始末屋向きじゃないね。どうする、サカさん?」
「どうするもこうするもねえよ」
大悟がここまでしてくれたのだから、後は自分が片づける。シラサカは和臣の右のこめかみに銃口を突きつけた。
「シラサカ、何をする!?」
「決まってんだろ、パートナーがやった後始末だよ」
「私を殺せば、浅田が黙って──!?」
言葉の途中で、シラサカは躊躇なく引き金を弾いた。呆気なく和臣は絶命した。
「はい、終わった終わった。後は頼んだぞ、サユリ」
「え、私がやるの!?」
「当然。おまえ、掃除屋だろ」
「さすがに浅田の人間の掃除は無理よ!?」
焦るサユリを無視し、シラサカは拳銃を収めた。
「あの、シラサカさん……」
「俺達の処遇は……?」
シラサカの元に、和臣についていた男達が集まってきた。本来ならこの場で全員バラしてもおかしくないのだが、ここは花村のオフィスだし、何より大悟が側にいる。
「そういうことは、俺じゃなく、レイに聞け」
シラサカの言葉を聞いて、全員の視線がレイに向かった。
「確かに、こういうことはあなたの仕事よね」
サユリはレイを頼るつもりでいるようだ。当の本人は腕組みをし、シラサカに視線を向けてきた。
「全部俺が仕切っていいのか?」
感情的に和臣を手にかけたシラサカと、和臣を裏切ったものの、後の事を考えていなかったらしいサユリは、同時に頷いた。
「わかった。まず草薙を始めとする警察の人間はこの場に居なかったことにする」
ここからはレイの独壇場となった。彼は花村を見やり、改めて一礼する。
「ボス、お体の方は?」
「問題ない。半分は芝居だったからな」
「念のため、先生の診察を受けていただいた方がよろしいかと。こちらから連絡は入れておきます。かまいませんよね?」
「わかった。全ておまえに任せるよ」
「ありがとうございます。マキ、車でボスと草薙を先生のところへ」
「りょーかい。そこの刑事さんはどうすんの?」
藤堂に支えられた草薙は、深く俯いたまま反応しなかった。
「刑事さんは警視庁に帰れ。無論、ここで見たことは他言無用だ。念のため、しばらくモニターさせてもらう」
レイは藤堂に予備の通信機を手渡した。
「でもレイ、この人は、草薙さんの……」
「ハナムラが関わるのは、草薙直属の部署である特殊事件捜査二係だけ。それ以外の人間と関わるつもりはない」
大悟の言葉を遮り、レイはきっぱりと言い放つ。
「わかった。総監のこと頼んだぞ」
藤堂は反論することなく、通信機を受け取り、草薙をレイに引き渡した。ここでも草薙はされるがままだった。
「カナリア、明日から俺がいいというまで刑事さんを監視しろ。時間は午前八時から午後十時まで。学校にいる間もだ」
「え、でも!?」
「花村和臣は拳銃自殺での死亡とする。勿論、この場にいる全員は口を噤むこと」
ここでも大悟の言葉を無視し、レイは話を続けた。
「オーケー、オーケー」
「だったら掃除はしなくていいわね」
シラサカはサユリと共にほっと胸をなで下ろしたのだが……
「シラサカ、サユリ、一度自宅に帰って、着替えを済ませてハナムラコーポレーションに集合しろ。今後の立ち回りを含め、詳細な打合せをする」
「はあ? 帰って着替えてこっちに来いって、明日でいいじゃねえか!?」
すぐさま不服を訴えるシラサカ。同意するように、サユリもこんな事を言い出した。
「そうよ。明日も学校あるのよ。そんなの無理に決まってるじゃない」
「言っただろう、和臣は拳銃自殺によって死亡扱いにすると。人がひとりが死ぬ、しかも拳銃自殺となれば、警察も関わらざるを得ない。明日から当分家には帰れないと思っておけ」
ハナムラでは、始末屋の後始末は掃除屋に、掃除屋の後始末は情報屋が請け負っており、自分達の領域外のことには口を出さない。だが、普通に人が死ねば、そういうわけにはいかない。
「なんだそれ、だったら普通に掃除すりゃあいいじゃねえか!?」
「和臣は俺達みたいな亡霊とは違うんだ。普通の人間が死ぬだけでも厄介なのに、奴は浅田の人間であり、花村の姓を名乗ってんだぞ。掃除して終わりですむわけねえだろうが!」
レイに論破され、ぐうの音も出ないシラサカ。大悟が心配そうな表情に変わる。
いやいや、今夜はハニーを鳴かせまくるって決めてんだよ!?
シラサカの気持ちを知ってか知らずか、レイは和臣側についていた人間達を集め、こう言い放った。
「おまえらがまずやることは、社長室の掃除だ。管轄外だろうがなんだろうが全員でやってもらう。これだけで終わると思うなよ。一時とはいえ、ハナムラに反旗を翻した罰は、きっちり受けてもらうからな」
レイより年上の人間がほとんどだというのに、異論を唱える者は一人もいなかった。
だから、俺はハニーを抱き潰すって決めてんだよぉ──!?
それを言葉に出来るはずもなく、シラサカは何度も心で叫ぶことしか出来なかった。
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