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第70話
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松田の診療所で週末を過ごした後、大悟はホテルに戻り、月曜から「学校+放課後は会社」というサイクルを消化し始める。この頃になると、Kは昼間ホテルに戻って仮眠を取ることが出来るようになっていたが、大悟の学校が終わる頃にはまた出掛けてしまい、完全なすれ違い生活となっていた。
「もうそろそろ終わると思うんだけどなぁ」
「終わるって何が?」
放課後、マキと雑談しながら大悟は会社のデスクトップパソコンに向かっていた。藤堂の見張りも、表の仕事の入力作業も、すっかり手慣れたものになっていた。
「サカさんとレイの会合三昧だよぉ。サカさん、イケメンじゃん。雑魚共が寄ってきて面倒くさいって言ってた。恋人いるって言っても聞いてくれないから、婚約者に格上げするとか言ってたよ」
マキが言うように、花村とKとレイは会合三昧になっている。四方八方に手を広げていた和臣の後始末と引き継ぎを三人でやっているとのことだが、花村は表の仕事、レイは花村の秘書としての仕事にも忙殺され、裏の仕事に関しては、自然とKが立ち回ることが多くなっているそうだ。
「確かに、恋人より婚約者の方がハードル高いよね」
架空の恋人を仕立て上げるより、婚約者の方が真実味がある。Kは見映えもいいし、ハナムラグループの役員でもあるのだから。
「念のために言うけど、それってカナカナのことだよ」
まさか自分のことだと思わず、大悟の手は止まった。
「俺!? 男だし、高校生だよ!?」
「どこまで話してるのかはわからないけど、サカさんは嘘つかないから。そのうち指輪とか買ってくるんじゃないかな」
そう言って、ケラケラと笑うマキ。
Kと大悟達が暮らす街では、同性同士のパートナーシップ制度が自治体で認められているが、Kには戸籍がないし、大悟も高校卒業後、然るべき時期には死亡扱いになる。自分達には無縁なものだと思っていた。
「ウチではとっくに公認じゃん。正式には、カナカナが高校卒業してからだと思うけど」
形なんてなくても、自分達の絆は揺るがない。そう思っていたけれど、マキから話を聞いて、大悟の心は少し揺れた。
高校卒業して、Kとパートナーだって認められたら、少しは自信がつくのかな。
どんなに頑張っても埋められない年の差の壁。少しでも乗り越えるために、大悟はまず高校を卒業しなくてはならないだろう。
そんなこんなで日々は過ぎていき、Kのいない金曜日が再び巡ってきた。今日も学校へ行くべく、大悟が玄関の扉を開けた瞬間、Kがなだれ込んできた。
「わー、ハニーだ、やっと会えた!」
「おかえり、Kって、うわ、お酒くさい!」
「朝まで飲まされたからねぇ。ああ、ハニーだ、ハニーの体温……ってなんか熱くない?」
玄関でKに抱きつかれ、大悟は彼を抱えるようにして、部屋に招き入れる。
「Kがお酒飲んでるからだよ。ほら、靴脱いで、一回寝た方がいいよ」
「うんうん。寝て起きて、風呂入ったらハニーに触れられるぅ!」
かなり酔っているKをなんとかベッドに運ぶ。冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、サイドテーブルに置いておく。ひとりになってから大悟は電車通学になったため、そろそろ出ないと間に合わなくなる。
「ごめんね、K、俺、学校行くから!?」
「うんうん、いってらっしゃい」
「お水飲んで、酔いが冷めてからお風呂に入るんだよ!?」
「うんうん。今夜、いっぱいしようねぇ」
どうせ夜には出掛けてしまうだろうと、適当に流して大悟は学校へ向かった。
日直ということもあり、大悟は午後の授業を終えた後、サユリがいる化学準備室へとやってきた。
「さっきレイから連絡あったわよ。今日は放課後、会社に来なくていいって」
サユリは身内の不幸で三日休んだ後、学校仕事に復帰した。彼女は和臣の影として動いていたものの、表立っての活動はないため(関わった人間は全員死亡している)レイ達のように立ち回ることはなかった。サユリは会社に顔を出すこともないので、彼女がハナムラの掃除屋のリーダーであることを知る人間は、ごく限られた人物だけのようである。
「一段落ついたみたいよ。さすがのレイも週末まで休むって言ってたから、相当疲れてるみたいね」
だとすると、今朝のKの言葉も、嘘ではないということなのか。
(今夜、いっぱいしようねぇ)
言葉が駆け巡ると同時に、全身が熱くなる。今度こそKに触れられる。夢じゃないのだと思うと、大悟の体はふわふわしてきた。
「あらあら、真っ赤になっちゃって。熱でもあるのかしらねぇ」
サユリが冗談めかして額に手を当てる。熱なんかないはずなのに、彼女の手の冷たさが心地良くて、大悟の意識は急激に遠退いた。
「ちょっと、小鳥クン、あなた、本当に熱があるわよ!?」
そんなわけない。やっとKに会える。今夜はずっと一緒なんだから……。
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