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第73話
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眠ってしまった大悟を抱え、シラサカはバスルームを後にした。丁寧に髪と体を拭いて、ホテルの備えつけのバスローブを着せて、後ろから抱えた状態でドライヤーで髪を乾かした。余程疲れているのか、大悟は起きなかった。ここまで我慢させたのかと、シラサカは落ち込んだ。
先程とは異なるベッドルームに入り、大悟を寝かせる。何かあったときのための薬やミネラルウォーター等々を用意した後、シラサカは側にある椅子に座った。昼間寝ていたこともあり、完全に目が冴えていた。
言葉だけじゃダメだ、何か形にしないと。
そうは言っても、同性同士の結婚は日本では認められていないし、何よりシラサカには戸籍がない。住んでいるマンションの名義は花村のものだし、何かあったときのために、偽名の住民票を作ってあるが、詳細に調べられればわかってしまうため、あまり使わないようにと言われている。
とはいえ、表立って出来ることは、限られてるよな。
どうしたものかと考えていると、テーブルに置いたスマートフォンがチカチカと光った。電話ではなく、SNSのメッセージだが、機械音痴のシラサカは大悟やレイ、マキと言ったごくごく身近な人間としかやり取りをしない。
スマートフォンを手に取ってみれば、メッセージを送ってきたのはレイだった。文章で返すより電話した方が早いと思い、シラサカはそっと部屋を出て、電話をかけた。
『カナリアは大丈夫なのか?』
大悟が倒れた話は、レイにも伝わっているらしい。
「ああ。先生いわく風邪だろうって。諸々あったけど、今は寝てる」
諸々の意味を察したのか、ひとつ息を吐いた後、レイは言った。
『カナリアが弱音を吐けるのはおまえしかいないんだ。無理させるなよ』
サユリと同じようなことをレイにも言われ、シラサカはまた落ち込んだ。
「はいはい、俺は鬼畜以下だって、自覚してますよ」
大悟から猛烈に強請られたとはいえ、己の欲に負けてヤってしまった。それでまた熱が上がったのだから、言い訳のしようがない。
『別に責めてるわけじゃない。カナリアが心配だと、マキから毎日のように連絡がきていた。おまえのところにはなかったのか?』
「そんな連絡きたら、会合なんかすっ飛ばしてるわ」
だからマキはシラサカに送らず、レイに送り続けたのだろう。
『あちこちに婚約者がいるってふれ回ったんだろう。カナリアを紹介するつもりなのか?』
「するわけないだろ。ハニーを他の奴に晒すなんて有り得ねえよ」
ハナムラへの繋がりを持とうと、独身のシラサカに次々と縁談らしきものが持ち込まれた。勿論全て断ったが、恋人がいると言っても聞いてもらえないため、途中から婚約者がいると言うことにしたのだ。
『そういうことなら、きちんとけじめをつけろ、シラサカ』
「それを考えてたとこ。形にするって難しいよな」
今回のような事態がまたいつ起きるとも知れない。その都度、こうして大悟に負担をかけることになる。だからといって、突き放すことも出来ない。シラサカにとって、大悟は唯一無二のパートナーだから。
『俺達は世間一般とは違う価値観で生きている。合わせる必要なんかねえ。俺らなりのやり方で形にすればいいだけだろ』
レイの言葉は染みた。年下なのに説教され、何度となく邪魔をされてきたが、今日ばかりは彼の優しさが身に染みて、シラサカは泣きそうになった。
「おまえって、いい奴だったんだな……」
『は? 気持ち悪いこと言うな! 切るぞ』
本当にレイは電話を切った。嘘偽りなく褒め称えたというのに、それを気持ち悪いと返してくるとは。レイらしいとも言えるが。
そっか、俺なりのやり方で、ハニーへの愛を証明すればいいってことか。
誰に紹介するわけではないけれど、大悟はシラサカのたったひとりのパートナー。それを証明すればいいだけのことである。
シラサカはすぐマキに連絡を入れた。彼にも秘密のパートナーがいるから。
『どうしたの、サカさん? カナカナは?』
「ハニーは今寝てる。マキ、前にハルにプロポーズしたとか言ってたよな」
大悟と出会う前の話だが、OKを貰えたからと散々惚気られたことがあった。
『うん、したよ。お揃いの指輪を買って、ずっとつけてる。僕は見えないように、ペンダントにしてるけどね』
「それ、どこで買った?」
『デパートだよ。内側に名前彫ってもらったから、ちょっと時間かかったけど』
「名前? そんなもん入れられんのか?」
アクセサリー全般に疎いシラサカである。思えば、形に残るようなものを誰かに渡した記憶が無かった。
『そうだよ。カナカナに指輪渡すんだね。だったらさ、会社で皆の前でやろうよ』
「は? そんな恥ずかしいことやるかっつーの!」
『今更じゃん。サカさんとカナカナがラブラブだってこと、皆知ってるし』
会社でもハニーハニーと連呼して、ベタベタくっついているのだから、知らない者はいないだろう。だが、それとコレとは別なのである。
『カナカナのためにもそうすべきだよ。大丈夫、僕が仕切ってあげるから!』
仕切られることが嫌でシラサカは拒否したが、それが大悟のためだからと言い張って、マキは引かなかった。
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