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第74話(前編)
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二週間が過ぎた。大悟の風邪も、Kの会合三昧も、藤堂の見張りも、ホテル暮らしも全て終わり、いつもの日常が戻ってきた。
「ハニー、その仕事、いつ終わるの?」
その日も学校を終え、大悟はKと共にハナムラコーポレーションにやってきた。Kはわざわざ隣(空席)にやってきて、大悟の入力作業をじっと見つめている。
「うん、もうちょっと」
最初はやりにくかったが、見られていることが常になると気にならなくなる。大悟はKの問いかけに適当に返事をし、黙々と仕事をこなしていた。
「もうちょっとってどれくらい?」
「これが終わるのがもうちょっとなだけで、そこのファイルもやるから」
「そんなに仕事しなくていいじゃん」
「でも、レイに比べたら全然だから」
はっとした。レイの名前を出すとKは機嫌を害するから。
「そっかそっか、ハニーは今忙しいんだよなぁ」
だが、今日はなぜか上機嫌のKである。
「はい、ちゅうもーく!!」
そのとき、社内にマキの甲高い声が響き渡る。同時にKが大きな溜息をついた。
「時間になったので、朝の打合せ通りに進行したいと思いますっ!」
Kと同じく会社では遊んでいるのが常のマキだが、他の人の邪魔はしない。朝の打合せと言うことは、大悟がいない間に何かあったということだろう。
「何が始まるの?」
「いや、まぁ、ちょっと、いや、だいぶ恥ずかしいことかなと……」
Kの答えは曖昧だった。やがて、苺がたくさん乗ったホールケーキがKの前にどんと置かれた。
「これ、ゲンさんからの祝いの品だって」
「ペラペラ喋りすぎだろ、マキ」
「ゲンさんとはこれからも関わるんだから、ちゃんと言わなきゃでしょ」
やがて社内にいた全員が立ち上がり、どこかへ移動する。彼らの行き先を見ていたら、視界に藤原親子と鳥居が現れた。
「藤原!? ルミルミさん!? てゆーか、鳥居をここに連れてきてよかったの?」
藤原親子はまだわかるが、鳥居はどうだろう。彼は正式に藤原家の養子になったが、高校卒業までは今のまま(鳥居姓)で通すことになった。来週から復学することが決まっている。
「未成年者ふたりに関しては、俺が特別に許可した」
次に現れたのはレイだった。彼の後ろからひょいと松田も姿を見せる。
「テツも連れて来たかったんだが、さすがにマズいだろうと言われてな。ほれ、祝いだ」
松田が差し出したのは、綺麗にラッピングされた花束だった。
「うわ、コレかよ。計画ぶち壊しじゃねえか」
Kは立ち上がり、花束を見た途端、機嫌を害した。
「祝いなんだから、いくつあってもいいじゃねえか」
松田にそう言われてしまえば、何も言えなくなるKであった。
「ちょっと、今日の主役が何してんの、早くこっち来てよね」
マキに追い立てられるようにして、大悟はKと共に会議室へ連れて行かれる。扉を開ければ、垂れ幕には「Happy Wedding」と書いてあり、飲み物や軽食が準備してあった。
「誰か結婚するの?」
「うん、サカさんとカナカナがね」
「そうなんだって、ええっ!!?」
マキは当然のように言ったが、寝耳に水の大悟は驚くばかりである。
「ではでは、メンバーも揃ったので始めたいと思いまーす。サカさん、カナカナ、こっち来て」
マキの手にはマイクが握られ、わけがわからないまま、壇上へ連れて行かれる。
「本日はお忙しい中、サカさんとカナカナの結婚式にお集まりいただき、ありがとうございます。では早速、サカさんからカナカナに公開プロポーズでーす!」
「いや、待って、こんなの聞いてないから!?」
さっきKが言ったように、これは恥ずかしすぎる事態である。Kと並んで立たされ、皆の視線を一新に浴びて、大悟は慌てた。
「うん、言ってないから。ほらほら、サカさん、早く早く!」
マキに背中を押され、Kはごくりと息を飲んだ後、ジャケットのポケットからケースを取り出して開いた。そこには指輪が二つ入っていた。
「江藤大悟ことカナリア、かつ、俺のハニー、こんな俺だけど、一生側にいてくださいっ!」
Kは大悟の前に跪き、指輪のケースを差し出した。意外なことに彼の手は震えていた。
「え、ええっ!?」
「ほら、カナカナ、サカさんのプロポーズ、どうするか言ってよぉ」
マキに煽られ、大悟は追い詰められた。突然すぎて嬉しいよりパニック状態である。だが、いつまでもKにこんな事をさせるわけにはいかず、そそくさとケースを受け取って言った。
「こ、こちらこそ、お願いします」
「はい、これでふたりは晴れてパートナーということで、皆拍手!」
マキの言葉の後、列席者から盛大な拍手が送られた。
「おめでとう、大悟、これでホンマに諦めついたわ」
「おまえ、まだ狙ってたのかよ」
藤原の声を受け、Kは立ち上がり、大悟をぎゅっと抱きしめる。
「横からかっさらったんは、ケイちゃんやろ」
「それ、ここで言うのかよ」
「ふーん、そういうことだったのか」
藤原とKを交互に見やり、鳥居はうんうんと頷いている。
「はいはい、そういう話は今日は無しね。みんな、シャンパンと未成年と飲めない人にはジュース行き渡った?」
この場を仕切っているのはマキらしく、彼の指示で紙コップに入れられた飲み物が配られた。訳の分からないまま、大悟の手にもそれが渡された。
「それじゃあ、サカさんとカナカナの結婚を祝して、かんぱーい!」
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