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六章 1
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————天使が住む天界、悪魔が住む魔界。それは人間が知らない世界。
火の付いた暖炉のある部屋にいる、二人の青年。
短い金髪に若菜色の瞳の青年は、椅子に座っているもう一人の青年に背後から抱きついた。
抱きつかれた腰まである長い銀髪の青年は、それでも振り向かない。
「どうしました? ミーシャ」
銀髪の青年の、感情は感じさせないのに柔らかい声色。彼の手には分厚い本。紫水晶のような薄い青——美女桜の瞳はその本に向けられている。
ミハイルの愛称形、ミーシャと呼ばれた美貌の青年。
「こっち向いて? コーリャ」
ニコライの愛称形、コーリャと呼ばれた青年は黙って本に目を落としたままだ。
彼の長い銀髪に唇を落とすミハイル。
「どうしてつれなくするの?」
その長い指がニコライの白い首筋をなぞる。その先にあったシャツの襟を滑り、閉じられた釦に触れた。
そこでようやくの振り返ったニコライ。交わるミハイルの若菜色の瞳と彼の美女桜の瞳。
「まだ朝ですよ」
「関係ないね」
一つ、釦が外された。
「俺のやりたいようにするだけ」
「…………」
口を閉ざすニコライのシャツの釦を、ミハイルがまた一つ開ける。白い肌が、鎖骨が露になっていく。
「君が欲しくて堪らない。いいでしょ? 昨晩は一回しかやってないんだから」
「…………」
赤いミハイルの唇が、ニコライの首筋に触れる。そして指先が釦をどんどん開けていく。彼の行為にに対して、ニコライの抵抗は何もない。
「お好きになさい」
ただそう言った。諦めと慈しみを含んだ口調で。
笑みを浮かべるミハイル。
「当然だよ」
シャツの釦が後ろから全て外され、露出されたニコライの鍛えられた白い胸元、腹部。ミハイルの手は彼のシャツを脱がし、上半身を全て露にしてしまう。
椅子に座ったニコライの後ろから前へ回るミハイル。彼の首元に顔をうずめ、舌を這わせ、キスを繰り返す。
ニコライが手にしていた分厚い本が、床に落とされた。
ミハイルの手は彼の背中に回された。肩甲骨の辺りにある赤い一対の痣を、見てもいないのに指先でなぞる。
「……ミーシャっ…………」
ニコライが初めて僅かに表情を変えた。
眉間に皺を寄せた彼に、ミハイル。
「いつも翼痕(よくこん)触られるとそういう顔するのは、俺が悪魔だから?」
「ち、が……」
否定しようとするニコライの中性的な顔に、ミハイルは顔を近づける。
「まだ思ってるの? 自分が高潔な天使だとかさ」
そして彼の唇を唇で塞いだ。つ、と彼の〝翼痕〟を撫でながら。
翼痕は遥か昔、天使や悪魔がその背中に純白、あるいは漆黒の翼を背負っていた証。
天使のニコライ、悪魔のミハイル。運命は交わることのないはずの二人を結び合わせてしまった。
「……ん、はっ…………ぁ」
クチュ、と二人の舌と唾液が絡み合う。ニコライの上顎を滑るミハイルの舌。ゾクリとするような感覚に彼が唇を離そうとするのを、ミハイルが片手で止める。
「は、ぁんっ……」
唇の間から度々息が漏れる。
ニコライはミハイルのシャツの中に手を差し込んだ。その背中を這い上がり、そこにあるはずの痣に触れる。悪魔である証に。
「…………!」
翼痕に触れられたミハイル。若菜色の双眸を見開く。銀色の糸を引いて唇を離した。
「何、するの……いきなりやめてよ」
「あなたも、ここは嫌なんですか?」
そう言って痣を指で撫でていくニコライ。頬はやや上気しているが無表情で見つめてくるその天使を、ミハイルは見つめ返した。
「嫌、じゃないよ……君に触れられるなら」
そしてニコライの左肩に唇を押し付けた。
白い肌を赤い唇と舌が滑る。肩から鎖骨の下の窪みへ、そのまま下に。胸筋の輪郭を、真ん中からなぞる。ミハイルの右手は彼の背中にあったが、左手は彼の腰のベルトへと向かっていた。
「まだ勃ってないんだ?」
口元をニコライの胸元に近づけたままそう言ったミハイルに、彼は眉をひそめた。
「今までの行為のどこに勃つ要素がありましたか?」
「冷たいね、コーリャ」
笑みを浮かべ、ミハイルはニコライの太ももに自分の股間を押し付けた。
「俺、君に触れるだけでこうなるんだけれど」
「淫乱」
「そう? 君が好きなだけだよ」
そう言ってミハイルは、ニコライの乳首に吸い付いた。
「ん、」
その僅かなニコライの反応を楽しむように、ミハイルは舌を動かす。左手を外したニコライのベルトからもう片方の乳首へと移動させた。指と舌に弄られるサーモンピンクの乳首。乳輪をくるりと撫で、突起を押さえたり摘んだりする。
ミハイルのシャツを握り締めたニコライ。
「……くっ」
「ここ、案外感じるんだよね。コーリャ」
「あっ、お黙りなさい……」
「やらしい。勃ってるよ?」
反応し始めたニコライの性器を下着の上から左手で掴むミハイル。
「ニコライの大きいから、この中じゃ苦しいでしょ?」
「んぁ、あなたこそ、」
ニコライの片手がミハイルのベルトに伸びる。
「え? 脱がせてくれるの?」
答えずに、カチャカチャとニコライの片手が器用に彼のベルトを外す。ファスナーも下ろし、下着の中で完全に勃っている彼の性器を取り出した。
「あんっ、コーリャの手、冷たいっ……」
テノールの美声で艶かしく言ったミハイルに、ニコライの性器が下着の中で更に大きくなる。ソレを掴んでいたミハイルは悪戯っぽく微笑した。
「俺に欲情しちゃった?」
「なっ、あなたって人は……!」
少し憤慨するニコライ。ミハイルは彼の性器を下着の中から取り出した。
「おっきいね?」
「黙ってできないんですか……、ん、あっ!」
ミハイルの長い指がニコライの性器を弄り始めたので、ニコライも彼の性器を抜くように手を動かす。
「あぁん、キス……しよ」
「ミーシャ、んぁ……」
性器を刺激し合いながら唇を深く重ねる。片手はお互いの背中に回し、体を密着させていく。
絡み合う舌。快感と熱を求め合う体。2人の美貌の男が欲しがるのはお互いの存在。認め合えるはずのない天使と悪魔。
「コーリャっ……離し、て」
ミハイルがニコライの性器を抜く手を離させ、もう達してしまいそうな自分のソレをニコライの性器に擦り付けた。
「ミーシャ? く、あっ!」
「ねぇ、も、イく……一緒にイきたい」
「はい、うあっ……」
ミハイルが腰を振りながらニコライを抱きしめた。
「イく、よ? ……ああっ!」
「ああぁんっ!」
二人はほとんど同時に達した。
ニコライを離したミハイルは彼の顔を覗き込む。息が上がり、目を潤ませて頬は赤した彼の顔が扇情的だ。
「コーリャ、エロいね」
「はい?」
ミハイルにズボンに手をかけられ、ニコライ。
「待ってください、最後までやる気ですか」
「駄目なの?」
「まだ朝ですし、こんな場所ですよ」
「……ん~~」
やや不機嫌そうな顔をして、ミハイルはすぐ横のテーブルにあったティッシュを手に取る。
「仕方ないな。じゃあ続きは夜ね」
「は、はい……」
ミハイルに薄笑いで言われたニコライは、少し戸惑いながらも返事をした。あまり良い予感がしない。彼にティッシュを手渡され、精液を拭き取ってベルトを締めるニコライ。床に落ちた本を拾いながら立ち上がった。
ミハイルと並んだニコライは、彼よりも背が高く体格も良いのが直ぐに分かる。
ニコライが持つ本を見て、ミハイル。
「トルストイ?」
「ええ。『戦争と平和』」
「どう? 人間界の本は」
「……少し不思議を感じることが多いです」
「だろうね」
二人がいるのは人間界。寒い地域の山奥に建てられた一軒家だ。人間に見つからないようにここに住み、食料の買い出しの時だけ山から下りる。ミハイルはずっとそうやってここで暮らしてきたのだ。
恋人は何人もいたらしい。それでもニコライがこの家に来るまで、彼はただ一人でこの家に住んでいた。
ただ、一人で。
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