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…三十分後。二人は、同僚達と共に会社近くの居酒屋にいた。古民家風の居酒屋で通された部屋は、御座敷になっていた。十畳ほどの部屋の中央に、大きな縦長に真四角の木製テーブルが陣取っている。テーブルをぐるりと囲むように置かれた座布団に皆が腰を下ろしていた。
居酒屋に辿り着いた時から、皆のテンションは鰻登りだったが、料理が次々と運ばれるようになってから本格的に有頂天になった。乾杯の音頭もそこそこに、料理を摘まむ箸が、グラスを空ける速度が早まっていく。
多少明るすぎるくらいの照明の下を無数の音が行きかう。さながら、オーケストラの如く音達が複雑に混ざり合っていく。
グラスがかちり合う音。液体を注ぐ音。皿が重ねられて、かちゃかちゃいう音。喧騒。咀嚼音に嚥下する音。笑い声、歓声、頬張りつつ無理に発せられるくぐもった声。
宵宮の席は…なんと気になる同僚の向かいになった。役職者の席以外は特に決められていなかったので、朝倉は当初ウサギの隣をとろうとしたのだが、颯爽と現れた比較的圧が強めの女性社員二人に両脇を抱えられ、テーブルの向こう岸にお持ち帰りされてしまった。それでも必死の抵抗を続け、宵宮の向かいの席を勝ち取ったのは雪男のなけなしのプライドかもしれなかった。
「ん~っ!!このホッケ美味しい!!」
「え゛。ここの唐揚げ、ジューシーな上にスパイシーでめちゃくちゃうまいんですけど!!」
「ちょっとぉ~。誰ですか、追加でビール注文したの!!」
「…西田君、サラダ少しでも食べましょうよ。さっきから食べているの肉ばっかじゃん。」
「枝豆はどこ行っても間違いないんだよなぁ~…。」
「あの、誰か一緒におかわり注文しませんかぁ~!??」
様々な言葉が行きかう中、今か今かと待ちわびていた追加注文の呼びかけに、宵宮は喜んで手を挙げる。
「…あ!!じゃあ、僕もカシオレ…。」
「お前はダメ。」
鋭く制したのは、向かい側で圧強めの女性陣に左右をゴリゴリにかためられた朝倉だった。
「え…。なんで…。」
一杯目も同様にアルコール封じされた宵宮にとってはたまらない。不満そうな眼差しを朝倉に向ける。卓上に肘を置いて頬杖をついた態度の悪い同僚は理由を口にした。
「お前、酒弱いだろ。前回、前々回と潰れて他人様に迷惑かけたの、もう忘れたのか。」
「・ ・ ・ハイ。」
ぐうの音も出ない宵宮だった。
(…っていうか、そんな昔の僕の記憶覚えているなんて…。)
宵宮はちらり、と向かいに座る雪男を見遣る。…普段から凛とした佇まいをする男だったが、座っていても姿勢の美しさは変わらない。っていうか、目の前に置かれた汗っかきの、中身が半分減っているビールジョッキが嘘のように、顔色一つ変えず左右の女性社員…左の梅木と右の竹井としっかりと会話している。対等に渡り歩くなんて、と宵宮の左隣に座った柴田が心底心配そうな視線を注いでいるが、憧れのセンパイはどこ吹く風で涼しい顔つきを崩さない。
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