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廃墟に連れて来られる前の出来事をここで、ふと思い出してしまい。
俺は弱みなんか見せたくないのに、目から溢れる涙を抑えきれなくて……。
──ひたすら啜り泣きながらも、あの時もこんな感じに情緒が乱れて苦しくて辛くて。
唯々惨めで悲しくて涙が止まらないから、がむしゃらに走って落ち着かせようとしてた所を。
何ものかに背後から襲われて、何かを首に打たれたら……いつの間にかあの廃墟に居たという経緯が脳裏に浮かび上がってきたので。
「ちょっと待って、今の件で……襲われた時の事を思い出しそうかも」
「本当? 相手は誰だった……?」
「おい、そんなに急ぐなよな。今出てきそうで……ってやっぱりわかんないや、クソ顔だけ出て来ないなんて……」
事件に遭う瞬間の光景がはっきりと見えてきては居るのに、相手の顔だけがもやがかかったかのように、曖昧でハッキリ思い出せない事に苛立ちながらも……。
ある一つの要素だけは思い出せたので。
「でも……ある一つの特徴だけは思い出した。 俺を襲った奴は髪が銀色で髪が長かった」
「長髪で銀の髪だと……へぇ、凄く特徴的なヒントだ。いやほんと……まずこの街には居ないね。居るとしたら……」
「……」
「この僕だけだから、でも……何度も言うけど僕だったら、君をあんな風に扱わないよ」
アレクセイはそう『とんでもない事になって来たな』と言いたげな表情とニュアンスで、僕は絶対に違うよと言うように答えるので。
「それは分かってる。だって俺をここに連れて来てくれたし、あとまだしてないけど、この俺と一緒に食事をとっても良いって……言う人があんな事するとは思えないからさ」
「そうなら良かった、僕を信じてくれるんだね」
「……当然だろう。だってそれだけの事をアレクセイは今してる、この街……いや、この地区で食事を共にする事は命懸けだからね。いつ何処で誰が食事に毒を入れるか、分からないぐらいの治安だからこそ。最も嫌われてる俺と共に食事をなんて……アンタが犯人だったら、する必要がない。むしろアレクセイの方が最も命の危機に晒されてる」
俺はそう嘘偽りなく、思った通りの言葉を吐いて。
目の前の男の目をじっと見つめ返しながら。
心の中でこう呟く。
(アンタはそれだけ凄い事を今しているんだよ、俺を嫌悪して……感情のままに毒を盛る奴だって出て来る可能性がかなりあるのにさ)
(だから……今まで、自分で選ぶ事なんて無かったんだ。でも、それは彼によって変わった)
(──俺は今日初めて、自分の意思でこのカクテルを選んだ)
(そうやっと選べたのだ。ここにもし兄が居たら絶対避ける、故郷の島国で最も人気であり、ある名前を残す為にこの星よりも遠く離れた地球という星にあったとされるものを)
(それが……あのカクテル)
そう言い終えたと同時に口を開いて。
「だから……俺はアレクセイを信じてるよ。そしてその、俺も……アンタに信じて貰いたいから。さっきアレクセイが聞いてくれた、どうして白雪姫を選んだのかを言うよ。そうそれは……このカクテルだけこの星とは違う場所から伝えられたものだからであり、俺と同じ黒髪蒼目の人物の名が隠れてる願掛けのお酒だからさ」
「ああっ……なるほど雪白か、地球を滅ぼした美しき太陽に捧ぐ生贄の子か」
「えっ……なんだよ、アレクセイも姫雪白の名前だけ知ってたのか。でも、アンタの知ってるそれは間違いだよ。雪白は地球を滅ぼしてないし、むしろ深く尊き人に愛された美青年なんだ」
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