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2 悪い夢の話
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悪い夢の話
夢を見た。一方的に怒鳴られる夢。その人間がなにを言ってるのかわからない。姿もわからない。ただ口許とその態度が怒鳴られてることを思い出させる。
……思い、出させる?
「ーーっは」
思い出したくない記憶から逃れるために勢いよく目を開け身体を起こす。昼の二時、ソファーで寝ていたときだった。
身体が震えて、息も乱れる。呼吸の仕方が、わからない。
「訑灸」
名前を呼ばれて背後から大きくて暖かな存在に包まれる。その手で視界塞がれた。
「訑灸、大丈夫。ここには僕しかいないよ」
俺とこいつだけ……あの人たちは、いない?
ゆっくりと深呼吸をする。ここはこいつの家で今俺が住んでる家。他は誰もいない。
ーーあの人たちもいない。
「っ、……しゅう?」
視界を遮る手を動かして、後ろを向く。そこにいたのは俺がもっとも安心できる、大好きな人で。
「しゅう、しゅう」
不安な気持ちをどうにかしたくて、何度も名前を呼ぶ。そして、身体ごと振り向き直し、正面から抱きついた。後ろに右腕を回して、左手でポンポンと頭を撫でられる。
「訑灸は、甘えたさんだなぁ」
頭の上でクスクス笑ってるけど、必死な俺のためにわざと話してることはすぐにわかった。少しでも気が反れるように、落ち込んでしまわないように、その声は優しくて暖かい。
「夢を、見たんだ」
「夢?」
抱きついたままポツポツと話し始める。その夢は俺の嫌いな奴らが一方的に怒鳴ってくる、今思うとすごく腹が立つ内容で。
「なんで俺、夢ん中まで怒鳴られないといけないの? もう関係ないよね」
話せば話すほど腹が立ってきた。顔をあげて、目の前の男に不満をぶつけていく。人の大事な睡眠時間まで邪魔してくるなんて、悪すぎる。
「……それだけ元気があれば、大丈夫そうだね」
「なに?」
小さく呟かれた内容はよく聞こえなかったから、聞き返したんだけど微笑んだだけで誤魔化された。なんだよ。
「ばーか」
その余裕そうな態度が気に入らなくて、子供染みた悪態をついた。俺よりはるかに大人だから当たり前なんだろうけど、気に入らないものは気に入らないんだ。
「ふーん、訑灸は僕にそんなこと言うの」
「なんだよ」
あ。こいつ今、すごく悪そうな顔をしている。よくないボタンを押したかもしれない。
抱き着いた状態から離れようと身体を後ろに下げたら、そのまま肩に手を置かれてソファーに倒された。
「わっ」
そのまま背凭れと俺の間に片膝を立てて、組み敷かれた。その表情、俺は知ってる。とても楽しそうなときの笑みだ。嫌な汗が流れる。
「なになに、口の悪い俺がかわいいってー?」
これは、精一杯の強がり。こいつを止める方法、俺は知らない。だから、可能な限り強がって余裕を見せる。まぁ、呆気なく終わるんだけど。
「ほんとにね。困るくらいかわいいよ」
「~~っ」
下唇を舌でなぞり妖しい笑みを浮かべる目の前の男に、一気に顔へ熱が集まって息が詰まる。その動作一つ一つで俺のこと乱すのやめてよ、かっこいいんだ。ズルすぎる。目が、そらせない。
「でも、悪い口は塞がないと」
「まっ」
時既に遅しとはこの事だ。
止める前に塞がれた。話そうとしてたから口は開いた状態で、こいつの侵入も易々と許してしまう。逃げようとしても追いかけられて捕まって、満足のいくまで吸い付かれる。解放されたかなって思えば、今度は口内を隅々まで堪能してまた捕まる。終わりの見えない長い行為に息ができなくなる。
「ーーっは、はぁはぁ」
「どう? 悪いお口は、反省できた?」
長いキスから解放されて、必死に空気を取り込む。口の端から垂れてる唾液も気にならない。今欲しているのは酸素で、ほやほやしている思考のまま原因を睨み付ける。
「急に襲う奴が反省した方がいいと思う」
「……まだいうの。本当に君は」
「ちょっと」
俺の言葉に呆れた様子で息を吐いて、そのままのし掛かってきた。重い、急に乗ってくるのは重いんだよ。
モゾモゾ動いて、少しでも楽になれそうな位置を探す。
「重いんだけど」
「かわいい君が悪いんだよ」
「意味わかんないし」
身体を抱えられて位置が逆転する。あいつが下で俺が上になり、そのまま抱き締められて髪をゆっくりすいて撫でられる。
「もう一眠りする?」
「ん」
抱きしめられた状態で寝るのが一番好きだ。しゅうの匂いは気持ちを落ち着かせるし、伝わる心音も温もりも全部心地良いから。
「おやすみ、訑灸。今度はいい夢を」
なにか言っているように聞こえたけど、意識がほとんど落ちていた俺はよくわからなかった。
再び眠りにつく。それは暖かな場所だった。
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