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「おい、皿洗いしてないで仕事しろよ」
「はあ?これも立派な仕事だっつの」
2人の会話は聞いているだけで楽しくなる。昔からの付き合いと言っていたし、相当仲が良かったのがよくわかる空気感だ。
勝手に敷居が高いものだと思っていたが、いざ入ってみるとそうでもなくて安心した。
「はい、どーぞ。杏仁豆腐の味のお酒だけど、飲めそう?」
見た目だけでは到底酒とは思えない真っ白なそれは、いかにも女の子が喜びそうな味わいだ。
口当たりも良く、だいぶ酔いが回っている今じゃ言われなきゃ酒だとわからない。
「美味しいです…飲みやすくて」
「いえーい!まぁそれがお仕事ですから?」
「隼人。面倒だからあんまりコイツ調子に乗せないで」
「え、えぇ…」
話しながらも手を止めず、続いて千鶴さんへ出されたロックグラスには、白と黒のツートンの酒が作られていた。
どれもこれも見た事がない。流石はそう言った専門の店だ。
「俺も貰うね〜」
「勝手にしろ」
3人で、何でもない話で盛り上がった。
バーテンの彼が豊の存在を知っているのかもわからない中で、わざわざ俺から千鶴さんとの関係を打ち明ける理由は見当たらない。千鶴さんに言うつもりがないのなら、それで良かった。
ここでは俺も、千鶴さんの特別になれた。
千鶴さんのホワイトルシアンを強請(ねだ)って、甘くて優しい生クリームと、苦くて熱いコーヒー味に目がまわる。
椅子から転げ落ちそうになった俺を支える千鶴さんの身体は温かいのに、氷で冷えた右手だけは冷たくて。
「気持ち良い…千鶴さんの手、もっと…」
もっと俺に触れて。もっと抱きしめて。もっともっと、俺を見て。
そこでぷつりと、意識は途絶えた。
──次に目を覚ましたのは、千鶴さんに背負われて店を出る時だった。
マジかよ俺…潰れるとかダッサ…。
「千鶴さんごめ…俺、」
「起きた?強いの飲ませてごめんってアイツ謝ってたよ」
「いえ、そんな…俺がペースをミスっただけで」
千鶴さんの肩にしがみつき、目の前の頸に軽くキスをした。
俺がβである事を最後まで隠し通せたら、千鶴さんは俺のココを狙ってくれたりするんだろうか。
「おろしていいよ、重いっしょ」
「そんな事ないけど…立てる?肩は貸すからね」
「うん…」
夜は更け、騒がしかった大通りも人が減ってきているのだろう。こちら側まで聞こえる声は、来る時よりも随分少なくなっていた。
俺をおろした千鶴さんは、すいすいとスマホを操作すると何も言わず耳に当てた。手首に輝く時計の針は、とっくにてっぺんを越している。
終電はいつか終わってしまったし、それより俺は店の中で一体どれだけ寝こけていたのだろう。おかしな事を言ってはいないだろうか。
「はい。タクシーを1台。…そうです、その乗り場の一本先の通りに居るので」
ああ、これで終わりか。俺の時間は。
0時を過ぎても隣にいてくれた。シンデレラには勝てたってことだ。
「帰っちゃうんだね…楽しかったよ」
力の入れ方すら曖昧なフラフラの身体で、めいっぱい千鶴さんを抱き締めた。
ほんのひととき、夢を見させてくれてありがとう。そう心の中で呟いて、溢れた涙は千鶴さんのシャツへと染みる。
「…何言ってるんだよ。まともに歩けもしない隼人を置いて行くわけ無いだろ」
「え、それ…どういう…」
「一緒に何処か泊まるんだよ。そんな状態で、どちらにせよ1人で帰すわけにはいかない」
耳を疑った。まさか俺からでなく、千鶴さんから誘ってもらえるだなんて思っても見なかったから。
程なくして到着したタクシーに千鶴さんが伝えたのは、すぐ近くのホテルの名だ。
ビジネスホテルはチェックイン時間を過ぎているので入る事は不可能。となれば真夜中に入室出来る所なんて、この辺りじゃラブホテルくらいしか選択肢がなかった。
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