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「ごめんね、今日は部屋、入れてあげられないんだ」
「今日"も"、だろ?」
俺の問いに、副総長は答えなかった。
ここはとあるバーのVIPルーム。
開店前のこの時間は、あまり素行のよくない高校生のたまり場になっている。
この辺りを束ねるチームのOBがオーナー兼店長をやっているから、多少のことでは咎められない。そんなベタな空間。
そのさらに奥の部屋は、俺の彼氏である総長"レン"が我が物顔で使っている部屋であり、レンのチームの幹部でさえ許可なく入室することはできない。
そんな特別な空間に招き入れられたときに感じたあれ。
あの感情が、いわゆる優越感というものなのだろう。
けれど最近、わざわざレンに会いに来たというのに部屋に入れてもらえないことが増えた。その理由はいつも同じ。レンが性的な意味でお楽しみ中。以上。わらえるだろ。
副総長に「誰も部屋に入れるな」だなんて命令でもしたのだろう、彼はここでいわば見張り番をしている。
そんな馬鹿みたいな命令を律儀に守るくらいにはチーム内の上下関係というのは絶対で、それに逆らったやつなんて見たことがない。
「俺、レンに呼ばれて来たんだけど」
つーかカギ締めろよ。それですむだろ。
右腕である副総長に伝言だけ残して、こんな嫌な役回りをさせて。何様のつもりなんだろう。今回の相手は女?男?それすらもはや興味はなくて。
「おまえは俺のものだ」とか「いつでも来ていい。おまえなら許す」とか、軽々しく口にする男を信用してはいなかったけれど、ここまで何度も裏切られるのはちょっと想像以上だ。
別に、もう傷つかない。
いちいちこんなことで傷ついていたら、かさぶたにすらなる前に次の傷がつけられてぐずぐずになってしまう。
それは俺の弱味になる。
特定のチームに所属していない俺の処世術と言ってもいいかもしれない。
「はい、どうぞ」
「……ありがと」
副総長が入れてくれたココアの湯気が、乾燥した空気にじわりと溶けていく。ソファに座り、ふぅ、とココアを冷ましながら、ため息を誤魔化した。
「サト」
副総長が俺の名を呼んだ。
たった2文字。音に視覚情報は伴わないはずなのに、どうしてキラキラしているように聞こえるのだろう。
その声をもう一度聞きたくて黙っていたら、湯気越しに目があった。俺の隣に座り、「おいし?」と聞くその目があまりにも優しい。
副総長は色素が全体的に薄い。肌の色もそうだし、瞳の色も。髪は黒いけれど、地毛があまりにも明るいからわざわざ染めていると噂で聞いた。その証拠に女子が羨むようなばさばさのまつ毛は金色に近い。
身長は180cm以上あって、多分日本じゃないどっかの国の血が入っているんだろうなと思うけれど、それを聞いたことはない。相手が話したいこと以外は聞かない。これも処世術。
「……サトはさ、総長のことまだ好き?」
「なんで?」
「いや、……こんなことばっかされて、心配してるんだよ。サトが突然ここに来なくなったらどうしよう、とかさ」
「……そういう意味では平気。懲りずに来るよ、毎日でも」
「そっか」
「うん」
少しだけ、ほんの少しだけほっとした顔をした副総長は、それでもまだどこかさみしそうで、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「いい子だね、サト」
「"都合のいい子"な」
「ばか、怒るよ?」
「副総長が怒ったとこ見たことない。見たい」
「もー」
何言ってんの、とふわり笑う副総長。
あったかくて、甘くて、そう、ココアみたいに舌に残るようなその笑み。
もう、それを見ただけで充分ここに来た意味があるような気がした。
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