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優しい君
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保健室に入るとそこには、保健医の他には誰もいず、俺の存在を認めると作業していた手を止め保健医から声をかけてくれる。
「やぁ、珍しいお客さんだね」
体調を崩し、保健室に来ている生徒を客と例えるのはいかがなものかと思ったが、あまり深くつっこまないことにする。
「失礼します。すいません、ちょっと体調が優れなくて」
「あらあら、本当だ顔色も良くないね」
俺の顔を見てそう言い、机の上にある道具をガチャガチャあさりその中から体温計を取り出し、机の引き出しから用紙を引っ張り出す。
「そこに座って。取敢えず、体温計ろうか。吐き気とか頭痛とかある?」
俺に体温計を渡し、診断表であろう用紙に記入する項目を質問してくる。
チラッとその項目をみたが結構な量の質問が書かれている。
うぅ、いいから早く帰らして欲しい。
質問に答えながら、体温計が鳴るのを待つ。これで熱がなければ送り返される、とかだったらどうしよう。
俺の心配をよそに、pppっと体温計が測定終了の知らせをする。正直、仮病で来ている俺に熱があるとは思えないので、体温計の数字を見るのが怖い。音が鳴っても、なかなか体温計を差し出さない俺に、しびれを切らし保健医が手を差し出す。その手に渋々、といった感じに体温計を置いた。
「うーん。熱は無いみたいだね」温度を確認した保健医が、顎に手をかけながら言う。
やはり無かったか…
「で…でも、頭痛とかがひどくて、多分勉強のしすぎで疲れてるんだと思います、家に帰って早めに睡眠を取れば治ると思うので…」
俺が、焦りを隠しながら伝えると、保健医の眉がぴくりと動いた。
「早く帰りたくなるような、何かがあったのかな?」
保健医の言葉にギクリと肩が揺れる。
「一応こっちも色々な子を診てきてるからね、仮病かそうでないかくらいは、顔を見ればわかるよ、何かあったんだろう?僕には言えないことかな、一応生徒の悩みを聞くのも保健医の仕事なんだ」
俺が言葉に詰まっていると。ふふっと笑って「まぁ、無理に話せとは言わないよ」と、言いペンを机においた。「それより。早く帰りの支度をしなさい。急いでいるんだろう?」
その言葉に俺が呆然としていると。保健医は軽くウインクし「今回だけだからね」っと微笑んだ。
「また何かあれば話を聞くから、遠慮せずにきなさい」
「あ、ありがとうございます」
保健医は微笑みながら、うんっと頷き俺の頭をなでた。
保健医の言葉に甘え、俺はそそくさと保健室を後にし、廊下を歩きながら、何て素晴らしい先生なんだ…と胸をときめかした。
その時にちょうど、授業開始のチャイムが鳴り、廊下にいた生徒達が急いで己の教室に戻りだした。
教室に帰り教師に早退の旨を話し、高橋がいつくるかわからないので急いで、帰り支度をする。
「日高、大丈夫か」
保健室から帰ってきた俺を案じて、秋原が声をかけてくれる。
「ありがとう秋原、今日はもう先に帰ることになった、熱とかはなっかたから心配しないで」
俺がそう言うと、安心したように微笑み、「そっか、家でゆっくり休めよ」と言ってくれた。
俺が知らなかっただけで、世の中には優しい人で溢れているのかもしれないな。
保健医や秋原の優しさが胸にしみる。
じゃあ、っと秋原に告げ、教室を出ていき高橋に会う恐れはまだあるので足早に廊下をすぎた。
靴箱で外靴に履き替え、中庭を歩く頃には流石にもう高橋とは遭遇しないだろうと、安心していた。
寧ろ、家に帰って母に早退の理由を告げることに、気が重くてその事ばかり頭にあった。
どうしようかな。でも、昨日父と激しく言い争ってたから、俺の事は眼中に無いかもな。
それもどうなんだって感じだが…
せっかく、保健医と秋原のおかげで心が温かかったのに一気に冷えていく。
ふいに高橋の顔が浮かんできた、そういえば高橋も凄く優しかった。
でもどうしてだろうか、保健医も秋原も優しかったのに、なんで高橋の事を思い出すんだろうか。
冷えていた心が脈打つ。
あんなに会いたくないと思っていたのに。
ダメだ、こうなってしまうからこそ、高橋から逃げてたんじゃないのか?
正気を保たなければ。
そう思いながら中庭をすぎる。正門から学校を出て、家の方向を目指し歩いて帰る。
後ろから、かけてくる足音を聞いたが、気に留めずに歩いていると、左の腕をグっと掴まれた。
いきなりのことで、驚いて振り向くと、そこには走ってきたのか息を荒くした高橋がいた。
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