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=Ring1= 007.
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ドサ、と崩れ落ちる彩(アヤ)。
僕は倒れこんでくる彼を落とさないように抱きとめた。
軽すぎて受け止め切れたか一瞬わからなかった。
「彩…がんばったね」
「ぅ………は、ぃ………」
長時間傷を洗われる痛みに耐え抜いた彩は、そこで気を失ってしまった。
藍(ラン)が慈愛に満ちた瞳で彩の頬を撫でる。
洗っている間中涙一つこぼさなかったのにはそれなりに感服するところがある。
そもそも貴族からの奴隷の扱いと言うのは酷いもので、遠慮や気遣いなんてものは一切ない。
少しでもミスをすれば硬いものや鞭で容赦無く叩かれるし、時にはミスをしなくても憂さ晴らしのために殴られる。
人権を殺されるとはつまりそういうことだ。
人間ではなく物として扱われる。
奴隷即ち「所有物」。貴族の世界の常識だ。
気絶した彩を脱衣所に横たえて、藍は怒りに肩を震わせた。
「…………許せない」
低くそう呟く藍を、僕は冷めた目で見つめる。
「許せない!! 人を人とも思わないことが、こんなことが、できるなんて……」
珍しく激昂していると思ったら、バッと振り返った藍の目には、案の定。
黒のリング。
「薔(ショウ)だって悔しいでしょ!!? 僕らと同じ人間なのに、こんなことされて何も言えない人がいるなんて!! 絶対……絶対おかしい」
「許せない、許せないよ」
「彩がこんなに苦しんでたのに、あの男……っ」
拳を握りしめて叫ぶ藍に、僕はゆっくりと歩み寄った。
ハッとして肩を揺らした藍。
その瞳からこぼれ落ちる雫をそっと拭う。
「………彩が起きるよ」
静かに言ってやれば、藍は少し落ち着いたようだった。
それでもまだ苦しげで過呼吸気味だったので、僕は藍を抱き寄せる。
「しょ…う…」
「藍の言うことはわかるよ…藍は悪くない。………もちろん彩だって悪くない。今は落ち着いて、…彩をこんなところにいつまでも置いておけないでしょ?」
子供みたいに泣き出したので、背中をぽんぽんしてあやしてやるとしばらく泣き続けてそれは止んだ。
まだ鼻をぐすぐすいわせたままの藍を近くの椅子に座らせ、桜田(サクラダ)を呼ぶ。
「どうなさいました、薔坊っちゃん」
彼女はすぐに来てくれた。
僕が彩を客間に寝かせるように言うと、すぐに担ぎ上げてくれる。
彩の体は、力のない桜田でもお姫様抱っこができるほどに軽かった。
去り際に彩が少し呻き、それに藍が反応する。
「あや…」
苦しそうな目で運ばれて行く彩を見ていた。
藍は情緒が不安定だ。
いつからだったかと聞かれれば、父が殺された時からだと僕は思う。
誰でも分け隔てなく愛するあの性格は幼い頃から変わらなくて、今でもずっとそう。
だけどそれを境に藍は荒れた。
グレたわけでも反抗的になったわけでもない。ただ大きな声を出すことが多くなった。
僕と二人だけの時や誰も見ていないとなると、まるで彼が彼じゃないみたいに瞳に憎しみを宿らせるようになった。
人が人扱いされない奴隷制度が気に入らないのは昔からだったけれど、その嫌悪が表に出るようになったのは父の死の後から。
感情が豊かになったと言えば良いことなのかもしれない。
だけど僕が気にかかっているのは、あのリングの瞳。
藍が藍でない時は、大抵あの目をしている。
双子だからだろうか、僕にはよくわかった。
藍は変わったんだ、良い方にか悪い方にかの判断は僕にはできないけれど。
そしてそれでも、愛するけれど。
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