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眞琴と祐介
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現在高校二年の眞琴と祐介は、同じクラスで幼馴染みである。
家が近く、保育園から小・中学校、そして特に合わせたわけでもないけれど高校まで同じで、部活も一緒の陸上部。長い時間を共に過ごしてきたけれど、互いに飽きるということがなく、ほぼ毎日、駄弁りながら帰っているといったところだ。
真琴と祐介の住むところは、田舎である。最寄りの駅はワンマン運転二両編成の電車が一時間に一本で、終電は二十二時半くらい。駅から周りを見渡せば、主に見えるのは田か畑か集落である。
眞琴と祐介の家は、駅から自転車で二十分ほどのところにある。途中で別れることにはなるが、割とそれぞれの家の近くまで、同じ道を行く。
その日はテストで、帰りが早かった。二人共、学校帰りに寄りたいところもなく、いつもの如く一緒に教室を出、校舎を出て電車に乗り、家の最寄駅に到着。と、電車を出たところで祐介が、
「眞琴。今日あそこ寄ってこうよ」
言いながら指差すのは、草が茫々と生い茂る空き地である。
特に面白いものがあるということはないが、眞琴も祐介もなぜかそこが好きで、小さい頃からちょくちょく行っては喋ったり、遊んだり、ただ座ってぼうっと過ごしたりということをやっている。
時刻は午後一時前。天気は晴れで、半袖を着て暑くもなく寒くもない気温だ。眞琴としては、明日以降のテストに備えて勉強をしなくてはと思ってはいたが、友からの誘いがあるのならば、迷いなく誘いの方に乗る。
「ん、いいよ」
快く了承し、駐輪場にてそれぞれ自転車に跨った。
ものの二、三分行けば、すぐにそこへ着く。二人、端に自転車を停め、どちらからともなく真ん中辺りへ。いつもの場所まで来たところで、
「おわっ!」
「! まこ……」
真琴は、石に躓いて前のめりにバランスを崩した。ちょうど振り向いたところであった祐介。驚いた顔の祐介が自分の名を呼び、受け止めようと両腕を若干上げたのが一瞬見えはしたものの、こちらの勢いの方が上であった。
どさり、
祐介に覆い被さるかたちで地面へ倒れ込む眞琴。正面から眞琴に突っ込んでこられて仰向けに草むらの中へ沈む祐介。
「ご、ごめ……」
地面に手をついて上体を持ち上げると同時に、反射的に瞑ってしまった目をすぐ開けて祐介と目が合ってーーー眞琴の言葉は続かなかった。
瞬間身体の内を駆け巡る、様々な想い。まずは申し訳なさ、恥ずかしさ、心配、そしてそれらとは別に、
ーーーあ、
理屈じゃない。理屈では、説明できない。
歯車がかっちりとはまったような。
逸らせない、視線。
はっきりと解る、「答え」。
さわさわさわ……、
流れていく風、揺れる草が、眞琴と祐介を二人だけの世界へ誘うようであった。
真琴の手が、祐介の頬へと移る。祐介の腕が、眞琴の身体へ伸びーーー
「、」
はっと、眞琴は我に帰った。途端に恥ずかしさに襲われて、がばり、自分の出来得る限りの速さで起き上がる。
俺、今、何をしようとした?
自分でも分からない。ただーーー何と、言ったらいいのかーーー彼と一緒くたになりたいと、思ったというか「感じて」、それで……。
「っご、ごめん! 俺……。け、怪我ないか?」
祐介が後からのそのそ起き上がるのを直視はできず、虚空へ視線をやりながら、眞琴は動揺を抑えきれない。
「ん、大丈夫、たぶん……。血とか出てないでしょ?」
言いながら、後ろを向いて背中を見せてくる祐介。見れば汚れてはいるが確かに血は出ていないから、「ああ、出てないよ」。
「じゃ、問題ないね。……で、眞琴。さっき」
『わかった』よね?
聞いてくる祐介。そちらの方を見られないのに、彼が真っ直ぐにこちらを見つめているのが分かる。眞琴は観念して、祐介の視線を受け止めるしかない。
見れば祐介は、微塵も恥ずかしがってはいなかった。ただ普通に、こちらを見ているだけ。それなのになぜこんなにも、「逃げられない」のか。
「眞琴」
ーーー応えよ、と。
焦ったさ、そして懇願をもって呼ばれれば、「うん」眞琴は頷くしか、なくなる。
「だよね。よかった」
祐介が嬉しげに言って、
「そんなに、困ることないと思うよ。ほんとにただ、分かっただけ。俺には眞琴で、眞琴には俺」
「……。なんでそんなに、落ち着いてられんの」
動揺に胸の内の揺れる眞琴には、それが不思議でならない。祐介だって初めてのはずだ。あんな感覚を、覚えるのは。
「なんでなんだろうね」
祐介が、くすくすと笑う。
「俺は戸惑いよりも、嬉しい気持ちの方が断然勝ってる。いつか、眞琴も……同じ気持ちになってくれたら嬉しいな」
*****
それから眞琴は、何かと祐介の隣で過ごすこととなった。
別に、祐介と過ごそうと強く思っているわけではない。それなのに、いつも気がつけば彼が近くにいる。
考えるより先に、身体が動いているのだ。いつだって自分の目はついつい彼の姿を探し、彼の存在を確認できれば嬉しくなり、脚はいつの間にか彼の方へ移動しようと動き、望み通り彼の横へ行ければ居心地のよさに気が緩む。その上、互いが互いに抱く安心感。
初めはそんな、よく分からない感覚に祐介を避けようとしていたときもあったが、もう諦めた。彼の存在が近い心地のよさを心から分かりながら彼といないことを望むのは、阿保らしく思えたからだ。
ーーーとある、昼休み。例の如く、眞琴は祐介と共に弁当を食べている。その際、通りがかったクラスメイトが、
「お前らってマジで仲いいよな。付き合ってんの?」
冗談混じりのその質問に、祐介と二人で「んなわけあるか」。
「付き合ってる」なんて、そんな薄っぺらい関係じゃない。
じゃあ何なのかって、名前なんてつけられない。
親友より恋人より家族より、もっと強固で深いもの。俺と祐介はそんな絆で繋がってるんだ……。
などとは続けられず、「ほんとかよー」とけらけら笑って去っていくクラスメイトの背中を見送りながら、眞琴は祐介と顔を見合わせて、二人でただ、くすりと笑うこととなった。
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