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「あ、おはよう坂崎君。コール鳴らしてくれて良かったんだよ?」
目を開けたまま、ぼんやりしていたら急に声をかけられて縮こまる
帰りたい…寮にいたい
耳を塞ごうとすると片手を取られた
「あ、こらこら点滴抜いちゃだめ。痒かった? 血も出ちゃってるね。今日包帯換える日だからこのまま換えようか」
「…っ、な、にするの」
腕の包帯を取っていくと手首にガーゼがされていて自分で切った痕がはっきりと見えた
深かったのかまだ血が少し出ていて目を反らす
「あの…」
帰りたいですと言いたいけど怒られそう
「ん? どうしたの?」
「あ…えっと…り、たいです」
「なに? ごめんね、終わったら話ちゃんと聞けるからもう少し待っててくれる?」
「…す、すいません」
ガーゼを当てながら包帯を器用に巻いていくのを見つめて待つことにした
…優しい人だとは思うけど、やっぱり知らない人と話すのはすごく怖い
「よし、終わった。ごめんね、私集中すると周り聞こえなくなるらしくてよく注意されるの。直そうと思ってるんだけど…」
「っ、い、いえ…すいま、せんでした」
気を、遣ったのかな…申し訳ないな
「ううん。こちらこそ、だよ。それで何か言いたかったのかな?」
「……いえ、に帰りたい…です」
家、というより寮にだけど…ここは、嫌だから出来るなら帰りたい
「なるほどね、だから針とか機械も抜いちゃったのか。わかったよ、先生に聞いてみる。でもあまり期待はしない方がいいかな」
「…はい」
病気じゃないのに、いつも僕はここに閉じ込められてるような気がする
外来にはもっと苦しそうな人が周りにいて、それなのに少し体が怠いぐらいで入院するなんて、変だよ
この腕だって…きっとすぐ治る
看護師さんはその後、検温をしたり血圧を測ったりして一度戻っていった
+++
「お疲れ様、坂崎君。病室一緒に戻ろうか」
看護師さんに伝えてもらったら、少しだけ検査をしてその結果次第では退院出来るかもしれないとのことだった
僕はその少しの検査が終わったところでドアを開ければ先生と高橋と桜井さん、みんないた
「…はい」
「結果次第では退院出来るそうだな」
「うん…はやくしたい」
「…そうだな。病院は嫌だよな」
先生の声に安心して泣きそうになるのをぐっと我慢した
三人に囲まれて歩くのがなんだか落ち着かない
でも、少し心強かった
「少しずつだけど回復してるね。調子はどう?」
「…多分、いいです」
先生じゃない白衣の人と話すのも怖くて思わず隣に座ってる先生の服を握った
「検査結果もいいし、どっちかというと精神的な意味で少し入院してもらってたんだけどここにいると悪化させそうだから…退院しようか」
「退院させて大丈夫ですか?」
「そうですね、体力面は元々そんなにないみたいですが今も同じくらい回復してますし、怪我の治りも若いので早いです。それに精神的な意味だとここよりもっと安心出来る場所の方がいいですね。病院でとり乱すとなるとカウンセリングを受けてもあまり効果はないかと」
難しい言葉を先生と医者が話してるから、僕はじっと黙っていた
退院って言葉がでてるから多分出来るみたいだけど…先生は少し難しい顔をしてる
「わかりました。祐。退院出来るそうだ。良かったな」
「…うん」
やっとここから出られる、良かった…
「今日が火曜日だから…木曜日でもいいですか?」
「はい。ありがとうございます」
「…ありがとう、ございます」
医者の人の言葉に顔を上げれば笑っていた
「良かった…本当に」
病室に戻って先生が二人にその話をしたら喜んでくれた
「おめでとう。やっと帰れるね」
「…はい」
なんでここにいるのか、僕が何をしたか…やっと思い出した
ずっと怖くて嫌でそれどころじゃなかった
退院出来るって思ったら少し、考えれるようになった
今更思い出したところで、謝ったところでどうしようもないんだけど
…だから病院は苦手
「祐、今でも死にたいって思ってるか」
突然、先生が真面目な顔で聞く
生きてても先生や二人に迷惑かけるのなら、いなくなった方がいいって思ったから…そう、してきたのに…いざ聞かれると何も答えられなかった
「今は…」
「坂崎」
高橋が近付いてくる
「俺、これからのこと考え直す」
「…え」
「西田のこと、俺、こっちに来るから友達じゃなくなるんじゃないかって考えてた。でもあいつ、今度詳しく教えてくれって言ってくれたんだ。今度があるってことだからまだ友達のまま。だからそこから、全部考え直す」
全部、捨てないことにしたと高橋は少しスッキリした顔で笑う
「坂崎も、今の先生の質問で困ってるんだったら…考え直して、くれないかな」
「…かんがえ、なおす…」
考え直すこと、出来るのかな
高橋みたいに全部捨てないように、全部投げないように、逃げないように…出来るのかな
「先生も桜井さんもいるからさ。俺よりは相談しやすいだろうし…それにやっぱり坂崎には生きて欲しいよ。だから、嫌なことは言ってほしい。全部自分のせいにして嫌になるのは…違うと思うから」
高橋は胸元を握りながら僕に伝える
「…ごめん、いきなりこんな話」
行こうと背を向けて歩き出す
「坂崎君。今でも高橋君のことは苦手?」
桜井さんの声に顔を上げればにこりと笑う
「…わかりません。でも、今…」
「うん」
なんでか、わからないけど
「…少しだけ、軽くなった…気がします」
息がしやすくなった
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