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44 高橋side
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高橋side
お墓を前にする坂崎を、正直見ていられなかった
草を取ってるときも、終わった後もずっと苦しそうな顔をしていた
先生もそれはわかっていたからなのか何も言わずに坂崎の頭を撫でている
「お父さんの裕とお母さんの砂で、僕の祐らしいです」
桜井さんの質問に答えているけど、どこか曖昧で俺が悲しくなってくる
すごく優しい、良い両親だったんだと先生も言っていた
だって自分の名前を組み合わせてつけるくらいだから大事にしてたはずなのに坂崎の表情は変わらない、むしろどんどん暗くなっていく
前に坂崎を助けたいと先生に言ったときに聞いた両親の話
『まだ小さい坂崎を連れてドライブして帰り道に事故にあったんだ。裕樹と祐は奇跡的に助かったんだが、砂奈さんは…手遅れだった。
事故のショックが大きかった祐にとって裕樹が助かったのは本当に良かったと思う。だが裕樹も砂奈さんが亡くなったことがショックで祐に当たっていたんだ。そして後を追うようにして自殺、したんだよ』
先生は裕樹さんと仲が良かった
だから亡くなったことも先生にとってはすごく悲しかったと言っていた
『俺の話は今はいいな。両親二人を亡くした祐は、まだショックから立ち直れてなくて遺産相続とか出来る状況じゃなかったんだよ。なのに、親族はその話ばかりで祐のことを全く考えていなかった』
両親に会えない、知らない人ばかりの場所で不安定だった祐を先生が育てることにした
『お金ばかりのやつに預けられませんとはっきり言って祐を連れ出して寮があるこの学校に入れたんだ』
保護者という扱いになるんだろうが、あのときの祐の状況を見て安心させてやりたいって思ったんだと、悲しそうに笑っていた
『だが、祐は裕樹のことに関しては自分のせいだと思ってる』
どちらも不安定で自分のせいでも、どちらが悪いわけでもない
『いい子だったら僕はお父さんに殴られてなかった。いつまでも悪い子だったから嫌になって自殺した、だから僕が殺したのと同じことだと』
そんなこと、考えすぎだと最初思った
でも、坂崎は当たり前のように言うことを接してみてわかった
誰が悪いわけでもない。トラックの運転手も逮捕されて解決はしたらしい
新聞にもテレビにも載らない小さな事故になったけど、坂崎の家族にとってはとても残酷な事故になっている
「坂崎のせいじゃない」
「……」
「悪いのは、運転手だよ」
坂崎の方を向いて言うとゆっくりと振り返る。目が合った瞬間、泣きそうになる。けど泣いてでもいいからちゃんと伝えなきゃ伝わらない
「…きっとみんな大好きで大事にしたかったんだよ。だから、その分無くしたら…悲しいなって」
「……そう、だね」
そう言ってまたお墓の方を向き直した坂崎に、伝わらなかったかと少し自己嫌悪していたら桜井さんが俺の両肩をぽんぽんと軽く叩く
「あの…?」
「大丈夫。ちゃんと伝わってるよ。ほら」
一人でお墓の前に立って口を開く
「お父さん、お母さん。…久しぶり。会いたくなかったかもしれないけど、今日で…最後だから」
「え…?」
俺が驚いているのに気付いてないのかそのまま続ける
「僕は幸せになったらいけないんじゃないかってここ来るときいつもそう思ってた。けど、もう…違うから。ちゃんと、幸せ…みんなと一緒に、幸せになりたい」
「っ」
「ごめんなさい…。だから、ここを離れます。最後まで、悪い子だ」
そう言って先生の方に向かう
「いいのか」
「…うん。もう、大丈夫」
「それじゃ戻ろうか。暗くなってきたし」
お墓のある森は街灯は一切ない。だから暗くなる前になんとか森を抜けないといけない
少し急いで車へと戻る
…本当に良かったのかな
もう少し整理というか…坂崎は何も悪くないと思ってくれたらきっと次は違う気持ちでお墓参りに来れるはずなのにと考えてしまう
後ろを振り返ってお墓のあったであろう場所を見ていたら、綺麗になった代わりになんとなく寂しそうにも感じた
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