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Lesson.5
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「多希さん。俺、頑張ったんです」
「うん、そうですね」
多希は串かつの焦げ目を確かめながら、生返事をする。
「多希さんに褒めてほしいです」
「ほめ……?」
子供のような申し出に、多希は思わず聞き返してしまった。
改めて久住と身体を向き合うと、真剣な声音でまた「褒めてください」とねだった。
「すごいですね」
「はい、頑張りました」
即席でつくった飾り気のない言葉に、久住は照れ笑いを浮かべる。
真面目ゆえに根も素直な年下に、胸がきゅんと鳴らされたのは自分だけの秘密だ。
衣の色がいい具合になった串かつを、先に久住の皿へ引き上げ、多希は次の串を投入していく。
合間に多希は久住にもらったビールを飲む。これも普段よりは少しいいものを買ったのだ。
──でも、こんなふうに感謝されて、嬉しい。
実家の洋食屋は兄が早々に継いでしまったし、両親はそれほど多希に期待をかけていなかった。
多希だけが可愛がられていなかったというわけではないのだが、自分の力は必要とされていないみたいで、やさぐれた気持ちにもなった。
料理の楽しさを伝えるという今の仕事は、なかなかにやりがいがある。
多希をこの道へと誘ってくれた三好には感謝している。
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