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交わるコトのない線
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居間にあるシガレットケースから〝ブラン ティーガ〞が消えていた。
フリックが吸ったのかとも思ったが、吸い殻もなく、直後の電話で真犯人を知る。
「高飛びしちゃったんだよね。すぐ次、見つけるから、目ぇ瞑っといてよ。誓斗には内緒で」
電話の主は、唯愛だった。
唯愛に卸していた売人が高飛びし〝ブラン ティーガ〞が入手出来なくなり、手っ取り早く、ここから盗んだらしかった。
さほど多くはない〝ブラン ティーガ〞の売人を、そう簡単に見つけられるとは思えなかった。
この場所から盗んだものは、誓斗が唯愛の元に戻るまでの質種だ。
つまりは、誓斗に〝ブラン ティーガ〞の為に戻ると言われたら、唯愛はそれを返却しなくてはならなくなる。
だが、嗜(たしな)んでしまったら、返せない。
だから、唯愛は誓斗には内密にしておきたいのだろうと推測した。
だとしても。
「誓斗、気づくぞ」
お気に入りの葉巻が減っていたら、誓斗は簡単に察するはずだ。
「だよねぇ……」
やっぱりそうなるよね、と唯愛の声は、困り気味に歪む。
「ま、最近あんまり吸ってねぇし、大丈夫だろ。…バレたら適当に誤魔化しとく」
自分が嗜んだコトにして、一言の謝罪でもつければ、問題ないだろうと判断した。
「誓斗、……オレに、飽きた?」
あまり吸っていないという俺の言葉を拾った唯愛は、誓斗が自分に飽きてしまったのではないかと深読みする。
「いや。違う意味で、回数が減っただけ。お前のコト、恋しくなって吸う回数は、変わってねぇよ」
回数が減ったのは、俺とのセックスがなくなったから、だ。
俺の言葉に懸念が消えた唯愛は、不満を零す。
「思い出すくらい恋しいなら帰ってくればいいのに……」
不服げな声は、電話の向こうの膨れっ面を容易に想像させた。
「いいよな、お前。ずっと傍にいられるし。……どうせヤってんだろ、お前ら」
ぶつぶつと文句を垂れる唯愛に、はあっと大袈裟に溜め息を吐いてやる。
愛がなくても傍に居られる俺が羨ましいと、唯愛は言う。
だけど俺は、傍に居なくとも想われている唯愛が妬ましかった。
いくら傍にいても、少しも意識してもらえてない俺は、空気も同じだ。
それに、〝兄弟〞という繋がりは、〝恋人〞や〝夫婦〞とは違い、お互いの感情が離れたからと、切断できるものじゃない。
「切っても切れねぇ血の繋がりもあって、ずっと想われてるんだ。それでいいだろ」
我儘を言うなと叱咤する俺に、唯愛の不貞腐れた声が返る。
「血が繋がってたって、想われてたって、傍に居れねぇなら、温かくもなんもねぇじゃん。オレは、感情より温もりが欲しいの」
感情を重視する俺と、温もりを欲する唯愛の言い合いは、いつも平行線のままで、交わるコトはなかった。
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