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佐久間蓮。
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悪趣味。
それは、自分でもわかっていた。
だけどそれを構築したのは俺じゃない。
ガキの頃から俺の容姿や環境に嫉妬する奴らからの妬みや嫉妬。嫌がらせは多かった。無視や目の前での悪口、物隠しなんて日常茶飯事。先生も見て見ぬふり。
その主犯となってたのが幼馴染で、唯一の友達だったなんて笑える。その瞬間から、二度とそんなもの(友達)いるかと思った。
貧乏だとバカにされてた時はまだ可愛いもんだった。
だけどその中で俺が小一の頃、母親が俺の容姿を売りに出した。雑誌のモデルオーディションに合格した後は、トントン拍子で人気を得ると共に金が入ってきた。父親がどっかの外人で(聞いたけど忘れた)、できたハーフだから容姿だけは良かったからね。
人間関係は面倒くさかったけど、見られるのは別に嫌じゃなかったし、カメラ向けられてる時は黙ってれば良かったから。俺には向いていたのかもしれない。
ただ、周りの奴らは変わらなかった。寧ろ悪化したんだけど。親はそれを知らない。モデルで入ってくる金にしか興味なかったからな。俺も言わなかったし、ガキながら誰かに言ったところで変わるなんて思ってもいなかった。俺の人生の中で消し去りたい黒歴史は、今も脳裏に焼きついてる。
それを忘れる為に上書きする方法を選んだ。
いつか絶対、お前らが一生手を伸ばしても届かない場所に辿り着いて鼻で笑ってやるってな。
親が金儲けに使った『俺』を今度は自分で自分の人生を塗り替える為に使うと。
それからは人気が出ると共に自分が特別扱いされる度、自分より下の奴らを見るのが楽しかった。
まぁ、一番好きなのは報われない、可哀想な奴を見ることなんだけど。他人の不幸は蜜の味、なんて最高な言葉だと思う。考えた人天才過ぎだろ。
そんな奴らばっか見てきたからか、人を見ただけで不幸か幸せかの判断ができるようになった。幸せなヤツは速攻で視界から外したけど。
今回もそんな軽い気持ちだった。
ソイツの不幸を見下して、嘲笑ってやろうと。
見るだけで、終わるはずだったんだ。
「ふふ、いい事でもあった?」
早朝の仕事終わり。
マネージャーの伊勢さんから車で学校に送ってもらう道中そんなことを聞かれた。
「……なんでッスか」
後部座席から窓の外を見ていた視線を運転席にいる伊勢さんに移す。ルームミラー越しに微笑まれた。
「なんか、嬉しそうだから」
(…………嬉しい)
──『俺は、メリットがあるからってだけでその人と付き合ったりしない。そんなの、周りが羨ましがることだろ』
『好きだったんだ。梨斗が、ずっと……っ』
その言葉と泣いてたアイツの顔が思い浮かぶ。と、自分でもわかるほど顔の筋肉が緩んだ。
「ほ、ほんとに何があったの?」
「別に。今、カワイソーな奴がいてそれが楽しいだけですよ」
また窓の外に視線を戻しながら言うと、次は呆れた声が帰ってくる。
「可哀想な奴って……。高校生になってもそれは変わらずなんだね……」
「趣味ッスから」
アイツらと違って、誰かを傷つけるわけでもないしね。心の中で思うなら自由だろ。
「あはは。楽しいのは何よりだけど、程々にね」
そんな俺を知っても拒絶しない伊勢さんには救われた。
高校に上がると同時に一人暮らしを決めた俺のサポートもしてくれたし。仕事だけじゃなく、私生活でも世話になっている。
「そう言えば、高校はどう? 早速SNSやニュースで話題になってたけど」
あー、なってたな。
最近はネットで広まるから早い。
「特に、トラブルとかはないです。男子しかいねぇし、他校から来る女子はいるけど」
「そっか、なら良かったよ。警備の方も今の所問題はなさそうだから。でもやっぱり芸能コースがある高校の方がよかったかな。設備もちゃんとしてるし、サポート体制もばっちりだからね」
「………………………………」
最初、社長や伊勢さんからはそっちを推されたっけ。普通に考えたら芸能コース行ってた方が断然通いやすい。
「だけど、蓮くんが初めて意思表示って言うか……。自分から行きたいって言ってくれたから嬉しいよ。僕や社長も最大限サポートはするから安心してね。星城の人達も協力するって言ってくれてるから」
ちょうど赤信号で止まって、顔だけ振り返ってきた伊勢さんに言われる。
きっと、その言葉に嘘はない。
家や学校以外で見えた景色や出会った人は、俺には勿体なさ過ぎるとふと思う時がある。
「……ありがとうございます」
顔を逸らしながら言うと、ふふっと笑う声がした。
窓の外にはもう学校の校門が見えている。
「!」
(アイツ……)
「そう言えば羽崎先生から聞いたんだけど、先生の代わりに学校の事教えてくれる子ができたんだって? 蓮くん、話すの好きだから友達になれると「ここでいいです」えっ」
信号が青に変わる直前、俺は車から下りてガードレールを跨ぐ。
「ちょ、蓮くん!? さすがにここじゃっ、」
窓を開けて伊勢さんの声が聞こえたけど、それは後車のクラクションによって掻き消された。その後は慌てて発進するアクセルの音が聞こえて。
「うわ、佐久間蓮じゃん!」
「ほんとにいたんだ」
「ヤバっ」
なんて、登校中の奴らが携帯のカメラを向けてくる。
(……お好きにどーぞ)
人集りになる前に足早にアイツの後を追う。
「はぁ……ねむ……」
(ふ、みっけ)
俺より二十センチ以上は低い身長に、寝癖で跳ねてる黒髪の後ろ姿は猫背気味。それに、顔は童顔。
でも、纏っている雰囲気は俺が好きな不幸色。
誰よりも輝いて見える。
「月波クン、おはよ」
「っ!?」
手首を掴むとビクッと震えて、俺の方を振り返ってきた。
明らか警戒している目に口元が緩む。
「さ、佐久間くん……」
(……タイプじゃない、全く。俺、熟女好きだし)
なのに、
「おはよ、は?」
「う、ぇっ……」
顎を掴んで上を向かす。その唇を親指でなぞるように触れると周りがザワついた。
「言わないとちゅーするけど」
「なっ……」
月波クンにだけ聞こえる声で言うとボンッと顔が熱くなった。
(おもしろ)
「お、おはよ! さよならっ」
俺の手を振り払って、逃げるように校舎の方へ走っていく。中に入る前に段差で転けてたけど。
「……月波琉依ね」
ここにいる人間よりどんな物より輝いて見える。
(月なんかよりも、ずっと──)
まだ朝。
それでも、俺には眩しいくらい。
「………………………………」
ザァァと吹き抜ける風に葉桜の葉が舞う。
これから始まる、新しい日々を祝うかのように。
──『ほら、一番星の隣では全てが霞んで見える。』
耳の奥で、そんな声が聞こえた気がした。
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