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【三歩】-5
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智明は律儀に手を洗うと、うがいまでしっかりして、さっき幸平が体を拭いたバスタオルで口を拭った。
「そういやきいたことなかったけど、幸兄って彼女いんの?いままで見たことないんだけど」
我が物顔で冷蔵庫を開ける智明の突然の質問に、なんだよとパソコンを片しながら幸平は目を向けた。
「見たことないんだったらいないんじゃない?」
「そっかぁ……幸兄かっこいいのにな。なんでだろうな」
大根役者よりひどい棒読みに、幸平は智明を睨めつけた。もちろん本気ではないがひと言くらい文句をいわせてほしい。けれど開きかけた幸平の口は、智明の盛大な溜息によって動かすタイミングを逸してしまった。
「まぁ今までいなかった方が不思議なんだけどさ、いやぁ参るなぁ」
「なんの話だよ」
急に話が見えなくなって、幸平は眉根を寄せた。
「いるとかいないとか、何?誰のこと?」
勝手にペットボトルのお茶を開けて一口飲んだ智明が、じっと幸平の瞳を覗き込んでくる。腹の中を探るような視線に居心地の悪さを覚えて身動ぐと、智明は頭を振って再び嘆息した。
「きいてない?そりゃきいてないよな、彼女ができたとか……こんなこと普通兄貴に報告しないもんな」
「え?」
一瞬空気が止まった気がした。冷やりとしたものが背中を流れ落ちていく。幸平は平静を装って、智明の肩にさり気なく視線をずらした。
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