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【三歩】-36
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「あ……アッあぁあ……ッ」
無造作にベッドの上へ投げ出された体を、荒々しい波が容赦なく襲う。これが現実なのか夢なのか、混沌とした意識の中ではすでに判別がつかなくなっていた。
「完成しないパズルはいつまでも欲求を掻き乱す。いい作品だ」
散々弄ばれたあと、ようやく男の体は幸平から離れていった。何事もなかったように身支度を整え、身も心もボロボロになった幸平には見向きもしない。ふたりの間を冷ややかな空気が流れていった。
しばらくして足音が遠退いていくのを感じて、幸平はなんとか体を起こそうと力を入れた。このままだと完全に陸地から切り離されてしまうと恐怖に体が震える。
「ま……って」
意識が遠退きそうになる中、やっとのことで出した声は掠れ掠れだ。
休息する岩場もなく、幸平は今にも溺れそうだった。誰か助けてと必死にもがいたが、もがけばもがくほど足には藻が絡みつき、深い海の底へと引きずり込まれそうになった。
途中誰かに腕を引っ張られて僅かに水面へ浮上した。一瞬呼吸が楽になる。再び沈まぬようにと、目の前のものに必死でしがみついた。それでも幸平の気力はもう殆ど残ってはいない。疲れ果てて、抵抗する力も縋りつく力もなかった。このまま攣りそうな足で水をかき続けても、ただ苦しいだけだ。
「……もういいや」
幸平がふっと全身の力を抜いた時だった。目の前に、昔夢で見た色のない花が咲いていた。それは一輪ではなく、一面を覆い尽くすほどの数だった。
さっきまで海を漂っていたはずなのにいつの間にかそこは一面の花畑に変わっていた。あんなにも重かった体は重力を感じないほど軽くなっていて、息苦しさも嘘のようになくなっていた。色のない花が光り出し、幸平の体も暖かい光に包まれていく。
遠くで声がした気がした。名前を呼ばれたような気もしたし、「おめでとう」そう花たちがいってくれた声だったような気もする。
とても安らかな気持ちだった。
「ありがとう」
幸平はさらさらと揺れる花たちにこたえるように、笑顔で後ろを振り返った。
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