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【二歩】-14
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幸平がバイクから落ちる前日、智明と話し合いとも喧嘩ともいえない面会を終えた洋之は、実家に泊まる予定だったのを急遽変更して寮の部屋に戻った。こんな明らかに殴られた顔で帰省しては、親が心配すると思ったからだ。
立ち寄ったトイレの鏡に映った姿は、想像していたより酷かった。よくやるよと斜め上の辺りで冷静な自分が笑っている。
智明は今頃、幸平の待っているあたたかい部屋に向かってバイクを飛ばしているだろう。ドアを開ければ「おかえり」そういって出迎えられるに違いない。誰もいない、狭い部屋に帰る自分とは違うのだ。それに幸平のことだから、痣をつくってきた智明を心配して、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるだろう。
幸平が欲しい。
離れてから再び開きかけていた心の穴が、今回のことでくっきりと姿を現したのを感じた。
「そろそろ潮時か」
闇夜に向かってポツリと吐き出せば、彼女を交えた会食の帰りに、幸平が気丈にしてみせた笑顔が脳裏に浮かんだ。ゾクリと快感にも似た高揚感が背中を走り抜けていく。
今にも切れそうな頼りない糸で繋がっているだけの関係は、それだけで自分が求められているのを深く感じられるから好きだ。だからできることならこの関係を今後も続けていきたいと洋之は思っていた。
しかしどうやら智明はいつまでもお人好しでいる気はないらしい。といっても智明の代わりに幸平を抱けるかと問われれば、それも正直なところわかったと即答することは難しかった。
幸平を思って自慰をすることはあっても、男を抱いたことはない。それでも智明に盗られるのが我慢ならないのは、この感情が間違いなく愛だからだろう。
「まさか兄貴に告白する日が来るなんてな」
想像もしていなかった展開に、洋之のほうが緊張しているようだった。初心な中学生のような心臓の高鳴り方に、洋之は夜道に紛れながら声を出して腹の底から笑った。
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