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【二歩】-18
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鞄を足元に置いて席に着くと、三分もしないうちに面会の約束をしていた宮原雅也は降りてきた。
「ああすみません、お待たせしました」
「いえ、こちらこそ貴重なお時間を頂戴しまして。今日はありがとうございます」
ぺこぺこと型通りの挨拶に名刺交換を終えると、宮原は改めて洋之に座るよう促した。それではと遠慮がちに腰を下ろす。机を挟んで顔をつき合わせたところで、洋之はようやくちゃんと宮原の顔を正面にとらえることができた。
「えーと……それで町田さん、本日は他社にはない新しいご提案をいただけるとのことでしたが……」
宮原は顎を撫でながら洋之の名刺を見つめていった。初対面の人間に対して訝しんでいるのが、戸惑いの色が声音に滲んでみえる。しかしそんな宮原の声は半分も洋之の耳には届いていなかった。
じっくり観察しなければわからない程度ではあったが、洋之の瞳は大きく見開かれ、小刻みに揺れていた。それは動揺だった。目の前の現実が、俄かに信じられずにいた。
「町田さん?どうしました?」
名前を呼ばれても尚、洋之の頭は混乱し続けていた。目の前にいるのは全く知らない人物のはずなのに、なぜか洋之には宮原の姿が幸平と重なって見えたのである。
「あ、いえ……その、すみません。あまりにも……その……宮原さんが知っている人と似ていたもので、驚いてしまって……」
「お知り合いに?そうでしたか。へぇ僕と似てるなんて、やっぱり世の中には似た人っているんですね。初めていわれました」
よくよく見ればやはり別人なのだが、何がそこまで似せているのか、残業続きの疲れ目を擦ってみても、やはり宮原は幸平と重なって見えた。
「そんなに似ているなんて。怖いけど、ちょっと会ってみたい気もするなぁ」
ひとり言のように呟いた宮原に、洋之は力なく薄く笑った。宮原はあからさまに気落ちした洋之の様子に感じるものがあったのだろう。「はしゃぎすぎてしまいました」と気まずそうに洋之から目を逸らした。
しかし宮原のその行動がかえって洋之の胸を騒つかせた。まるで幸平に避けられているかのように思えてならなかったのだ。
洋之は背筋を伸ばすと、改まった態度で少しわざとらしい咳をした。できうる限り申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「その……すみません、仕事の話をしに来たのに私のほうこそ変なことをいってしまって」
「あぁいえ。そうでしたね、本題がまだでした。それで本日は――」
洋之は気持ちを切り替え、鞄から持参した自社製品のサンプルと冊子になった資料を取り出してざっと机に並べた。
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