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【二歩】-26
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早朝というにはまだ早い、空に星が出ているような暗い時間に洋之は車で宮原を迎えにいった。本社勤務の時は乗る機会のなかった車も、今の職場ではフル稼働している。時々帰る実家にも洋之はいつも車を使っていた。
教えてもらったマンションの下に洗車したばかりの車を停車させ、ナビ代わりに使っていたスマホを固定クリップから外した。電話の履歴を開けば、いちばん上に宮原の名前がある。
到着するのを待ってくれていたのだろうか。ワンコール目で宮原は出た。
「あ、おはようございます。今マンションの下に着きました。早い時間にすみません、いえ……はい、お待ちしています」
電話を切り、ナビを設定し直す。準備が整うと、「すぐに降ります」といった宮原の姿を探した。まだ降りてこないことを確認すると、胸ポケットにそっと手を忍ばせる。
宮原からは食事をした翌日に行けるとの連絡を受けた。洋之は素直に一緒に出かけられることを喜んだが、しかし一方ではそれが幸平の一周忌であることに深い罪悪感も覚えていた。
洋之は指先に当たった小さくて硬い箱を取り出した。それは黒いベロア調の指輪の箱だった。
そっと蓋を開ける。毎朝中身に口づけるのが洋之の習慣になっているのだ。家を出る前と今と、今日はこれで二回目になる。
「兄貴……」
洋之はクッションの上に置かれた幸平の指の骨をそっと掌に乗せた。触りすぎてひと回り細くなったような気もするが、きっと気のせいだろう。
「宮原さんと兄貴に会いにいくよ。兄貴は気に入らないかもしれないけど……俺は宮原さんの気持ちが嬉しい。兄貴に会わせたいと思うんだ。まさか兄貴は俺が男を紹介するなんて思いもしなかっただろ?生きてたらすげぇ嫉妬してただろうな……でもさ、全部俺の告白をきく前に勝手に死んじゃった兄貴が悪いんだ。俺の気持ちはどうしたらいいんだよ。一生このままか?代わりが欲しい。兄貴の代わりがさ、俺には必要なんだ。だから……頼むから邪魔してくれよ……いつもみたいにさ。愛してるんだ……兄貴を愛してる」
洋之が涙を見せても目の前の幸平は何もいってはくれない。いつも静かに洋之を見つめるだけだ。
これで一つになれるかもと骨を齧ったこともあった。けれど得られたのは虚無感のみで、何一つ欲しい部分は満たされなかった。
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