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【一歩】-12
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何も手につかず、考えられない日々が続いていた。けれど日常は変わりなく過ぎていく。変ったのは部屋に幸平がいないことくらいで、それも一緒に住む前まではひとりだったのだから、そこまで大きな変化とはいえなかった。
朝起きて仕事に行って、残業して帰ってくる。一連の作業。お帰りといってくれる幸平はいない。休日のコーヒーも、手を繋いで眠ることもない。それでも一日のサイクルは何も変わりはしない。だがそんな日常に唐突に終わりがやってきた。平べったい世界を壊したのは、あのUSBメモリーだった。
幸平の一件があってすっかり忘れていたのだが、処分できずにいたあの日のズボンを何気なく手に取ったのがきっかけでその存在を思い出すことができた。ポケットに膨らみを感じて、そういえばと中を探ったら出てきたのだ。
しばらく手の中で転がしていたUSBメモリーを、一度は躊躇ったものの、智明は目の前に置かれたパソコンへと差し込んだ。キャスターのついた椅子を引っ張り出して、意を決して腰を下ろす。画面に表示されたUSBメモリーのアイコンをクリックすれば、モーターが唸り出した。重いのか保存されている動画のデータが表示されるまでに時間がかかる。
唸りが止まりサムネイルが表示された。カーソルをサムネイルの上に移動する。しかしデータをクリックする指は固まったまま動かすことができない。智明は再び躊躇っていた。なぜならサムネイルに映っているのが明らかに幸平の裸体だったからだ。智明は天井を仰ぎ見て、大きく嘆息した。
どれくらいそうしていただろう。智明は無心になるよう努めてマウスをクリックした。
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