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餌はしたたかに振る舞う
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「ん~?なんだ戻ってきたのか」
「腹が空いて我慢できなくなったか?」
宿舎の食堂には、隊員達がまだ大勢残っていた。
「お前は今日の主役だからなぁ。もてなしてやる予定だったのに、さっさと消えちまって退屈してたところだ」
先ほどシアンに食事を許さなかったひとりが、そんな事を言っている。
「本当だぞ?いけ好かねえウルヒの奴を返り討ちにしたんだ。朝の訓練ではいい物を見せてもらったからな」
「命乞いするウルヒの顔は傑作だったな!」
酒がはいり気の大きくなった男達が豪快に笑う。酒器であるアンフォラを片手に、もう片方の手でシアンを手招く。
「なぁっ…やっぱりやっぱり危険だぞ…!? 逃げようよ」
「大丈夫」
「大丈夫かこれ…!?」
シアンの背中に隠れたオメルが衣服の裾を引っ張る。
すると二人のやり取りを聞き取れない男達が、早くも痺れを切らした。
「お前ら何を話している?ぐずぐずするな」
「ウルヒに腕を切られてただろ。手当してやるから……へへ、服脱いでこっちへ来いよ」
「…皆さんお優しい方々ですね」
裾を掴むオメルの手を振り払い、シアンは食堂に入っていく。
座る隊員の目の前まで赴くと、三、四人が彼の周りに集まってきた。手首を掴む者。肩に手をまわす者。男の手が絡み付いてくる。
「手当ての前にお願いがあるのですが…。僕たちに水を頂けませんか?」
「──…水?ああ、それで来たのか」
「喉が渇いて仕方がありません」
「まぁそのくらい恵んでやってもいい。干からびて死なれても面白くない」
衣を剥ぎ取ろうとする手に対して無抵抗なシアンの顎を捕まえ、ひとりの隊員が笑った。
「飲みたいなら飲ませてやるよ…!!」
アンフォラを傾け酒をあおる。
その酒を口に含んだまま、シアンの顔を引き寄せた。
....ゴボッ
「……んっ」
「…っ…へ…へへ」
合わせた口から流し込まれた葡萄酒が、シアンの喉を通り抜ける。
勿論それだけで終わらない。
男は酒と一緒に自らの唾液を送り込み、シアンの舌を捕まえて絡ませた。売春宿でよくあるお遊びだ。
「どうだ美味かったか?ん?」
「ん……はぁ…」
「もうスイッチが入ったか?その顔いいじゃねぇか…!」
「……はぁ、はぁ、クク」
シアンは中途半端に空いた唇から悩ましく吐息を漏らし、薄く笑みを浮かべる。
垂れた酒をペロリと舐めると、一段と大きく溜め息をついた。
「──…不味い…ですね」
「…ッ…!? は?ああ!?」
「とても不味いです。残念、ながら」
「俺の酒は不味くて飲めないと言いたいのかよ!?」
「いえそれ以前の問題と言いますか…。この葡萄酒、酸化が進んだ粗悪品ではないかと」
「っ…そ あく…!? ああ?」
シアンの表情は、周りの隊員への嘲笑だ。
確かに、完璧な密閉方が確立されていない今の保存状態では、月日とともに酒の味は落ちる。出来たてを味わえるのはごく限られた人間だけ。
だがそれをはっきり言われてしまっては……
当然彼等は怒った。
「入隊試験で命拾いしたからって調子にのるなよ?下等市民が」
「市民じゃねぇ。そいつらクルバンはそれ以下だ。殺されようが文句言えねぇんだからよ」
「そんなお前に酒の味がわかるのか?あ?」
顔を近付けシアンを威嚇する。
「シアン!」
食堂の入り口でオメルが叫んだ。咄嗟に駆け寄ろうとするも、他の隊員に阻まれている。
「慌てないで、オメル」
「え、でもっ…?」
「皆さんも、癪に障る言い方を──どうかお許しください。このような粗悪品は貴方方に相応しくない。…そうでしょう?」
メンツをつぶされ怒る輩を相手に、落ち着いた口調でシアンが諭した。
「僕がこの酒の味を……変えられるとしたら?」
「なんだと?お前が?」
「試すだけでもしてみませんか?」
「…!」
何を言い出すのかと思えば……。
周りの隊員は唖然としている。
シアンの身体を掴んだその手も、固まらせていた。
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