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復讐者の記録──壱
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次に目覚めた時、少年は駱駝の背ではなく、藁(ワラ)ばかりが敷かれた小さな建物の中にいた。
ゴミ捨て場のようだと思った。
街外れで倒れていた彼を見付けてそこへ運ばせ介抱させたのは、その街で宿屋を営む女亭主。
女亭主は少年に問うた。──名前はなんだ。
……答えられない
──何故倒れていた?
……答えられない
──何処から来た?
……答えられない
──何処へ向かうつもりだった?
……わからない
全ての質問に少年が答えられず、呆れ顔の女亭主は最後にこう問いかける。
──あんたは生きたいのか、死にたいのか
…………
それにも少年は答えない。
生きたいとは思えない。ならば自分は死にたいのか?──まさか、彼は生きてゆく事を許されなかっただけで、自ら命を絶とうとした訳ではない。
生きるのに疲れただけだ。
死ぬ事ができなかっただけだ。
どちらにも転べず宙ぶらりんの状態で、" まだ " 生きてるだけの死人なのだ。
『 僕は死人だ──…』
それは問いの答えとは言い難い、しかし他のどのような言葉よりも的を得た返答だ。
『 そうかい……、あんたは死んでるのかい 』
『……』
『 死にたいなら今すぐ野垂れ死にさせてやろうと思ったけど、死人ってならその必要はなさそうだねえ?だったらその身体、好きに使わせてもらおうじゃないか 』
少年を救ったその女亭主は、有能で打算的な人間だった。
彼女はすぐに少年を宿に連れ帰り、これからここで働くように命令した。
『 あんたはここで身体を売って客をとるんだ。客ってのは男が多いけどたまに女もいる。この宿の客は金持ちの商人が多いから、上手く気に入られればいい暮らしができるよ 』
女亭主の話を聞いても少年は理解できない。彼の知らない世界がこの店にあるらしい。
身体を売る?手足を切り取って差し出せばいいのか。そんな想像が限界だった。
そう言えばと……切り落とされた指の事を思い出した少年は、掲げた左腕の肘から下が失われているのに気が付いた。
『 壊死(エシ)した左腕は切り落としておいたからね、まずはその治療ぶんを稼いでもらうよ。なぁに心配しなくても欠損した美少年を好む変態は多いさ 』
布で巻かれた切り口をぼんやりと眺める少年は、動揺する気配がない。
さすが死人といったところか。女亭主は感心した。
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