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本音 -9-
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コンコン、とガラス窓を軽く叩く音が背中から聞こえた。急いで背筋を伸ばしたが、武上はサッシを開けてこちらを見ている。
「朝食の用意ができました、お戻りください」
「すいません、俺の分まで」
「どうぞ、遠慮なく」
櫻井はそそくさと武上の横を通り過ぎ、ガラス天板のダイニングテーブルに就いた。
あからさまに項垂れているところを見られてしまった。武上から自分に何か言ってくるとは考えにくいが、黒宮に聞かれたらネチネチと突っ込まれそうだ。
櫻井は席に1人腰掛けた。テーブル上にはハムとスクランブルエッグのサンドイッチ、それと少量のサラダが乗ったプレート。
メニュー自体は何ともオーソドックスだが、櫻井が違和感を感じるのは、並んでいるのが2人分だけだということだ。
少し落ち着かなくなったところに丁度、黒宮がタオルで頭を拭きながら浴室から戻ってきた。
「お待たせ、腹減ったね」
黒宮にとっては、風呂から上がれば丁度出来たての食事が並んでいることも、当たり前になっているのだろうか。
「じゃ、いただきます」
「……いただきます」
櫻井はテーブル傍に佇み宙に視線を向ける武上に対し、今までに無い後ろめたさを感じながら手を合わせた。
櫻井がテーブルに座った時からテレビはニュース番組を流していた。今、沈黙の朝食が始まって、改めてそのことが意識される。
遅く起きた朝にふさわしい話題を……と考えても、先ほどの問答のあとで取って付けた雑談など、これ以上なく白けるだろう。
前回食事をしたときは、今の状況など想像もしなかった。あの直後から自分の計画は黒宮にペースを取られっぱなしだ。
でも、もう後は、黒宮に好きなように身体を使わせて、今の距離を維持するのみ……
……それで大丈夫だろうか?
さっき自分の目的を話したとき、答えは有耶無耶にされてしまった。しかし自分の方からはっきり、それについて答えを求めるのは心象も良くない。
これで、pmpを守ることになるのだろうか?
「おいしい?」
「え?」
「すごい不味そうに食べてるけど」
櫻井はギクリとした。不意にしたって、なんてことない質問だ。だけど櫻井にとって、それはどんな時でも聞かれたくない質問だった。
「いやいや、美味しいですよ」
しまった、いつもするように笑顔を作ってしまった。黒宮は案の定見透かしたように瞳をジッと覗いてくる。
「いや……俺も混乱してるんですって。昨日の今日、というか今朝のあれこれの直後で、こんな普通に一緒に朝食を食べるなんて……」
これは本当の話だ。
「別に普通でいいじゃん。ていうか、メシ食ったあとどうする?帰る?」
「……はい?」
聞き間違いをしただろうか、今、この男はなんと言った?
「ゆっくり寛いでっても構わないけどね、いつでも武上に送らせるから」
「……えーと、つまり、俺はいつ帰っても良かったんですか?」
「そのつもりは無かったんだけど、よく考えたらセックス終わったら今日はもうお前とすることないなって思って」
「…………」
黒宮と関わってから、今までで一番殴りたいと思える瞬間だった。
「朝食をいただいたら、おいとましますよ……えぇ」
「ふーん、そう」
帰りの車、櫻井は仏頂面で武上には一言も口を聞かなかった。
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