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崩壊 -2-
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地下にある駐車場、隅の暗い場所に櫻井は車を停めた。
コンクリートに囲まれたその場所に1人立ったとき、櫻井の身体には既に濃い汗が滲んでいた。この家に足を運ぶたびに、緊張を大きくさせている気がする。
櫻井は玄関の前に立ち、インターホンを探した。思い返せば、今までは家主か家政夫的マネージャーが一緒にいたから、そんなものを使ったことは無かった。
しかし周りにそれらしきものが無い、おそらくここに入るのにチャイムが必要な人間が、この場所を使うことは想定されていないのだろう。
恐る恐る扉を開き、階段のてっぺんめがけて「ごめんください」と声を張り上げた。少ししてヌッと姿を現した武上の影が、階段全体を覆った。
「どうぞお上がりください、寝室で黒宮がお待ちです」
武上はそれだけ言うと、またゆっくりと引っこんでいった。
櫻井はどうにも心細い気持ちになった。
誰かに引き連れられるわけでなく、ここからあの部屋まで、黒宮のいる場所まで歩くかどうかを、自分の意志で選択し、行動しなければいけない。
櫻井は小さく笑いを漏らした。今更になって逃げたいと思うなんて、軽い気持ちで野望を抱いた自分は考えもしていなかったな。
ゆっくりと階段を昇り、上がった先の玄関で靴を脱ぎ、フローリングに足を着けた。1人リビングを通過し、もう見慣れてきた扉をノックする。
「どうぞ」
のんびりとした声、その他に何やら音が聞こえるのはなんだろうか。
「失礼します」
櫻井は扉を開いた。何のことはない、黒宮はベッドに寝そべって、格闘なのかアクションなのか櫻井には判断が付きかねたが、ただゲームをしていただけだった。
「お仕事お疲れさま」
画面に「PAUSE」の文字が現れて止まると、黒宮はワイヤレスのコントローラを放り投げた。それは放物線を描いて、スッと前に一歩出た武上の両手に収まった。
空いた黒宮の手は櫻井を手招きする、櫻井はそれに従い、黒宮へと近付いた。
「今日もお休みですか?」
黒宮に促されるままベッドに腰掛けながら、世間話を振ってしまう。
「いや?しっかりテレビの収録で叩いたよ、どうせオケ被せられるけど。シタタリの2人はまだお仕事があるみたいだし」
「そりゃあ大変だ」
相変わらず、仕事についてはなかなか踏み込んだ話題をできない。
もし彼をpmpのドラマーに誘おうとしても、真面目に仕事をしてくれるかどうか、少し不安になるくらいだ。
「なんか、今日ちょっと固いんじゃない?」
「っ……」
耳の近くでの囁き。それは余計に櫻井の身体を強張らせる。湿っぽい吐息が耳の中まで届くたびに、櫻井も熱を帯びた息を吐き出した。
ベッドに腰かけた時から、股間に危うい予感は感じていた。そこは既にスラックスをはっきりと盛り上がらせている。後ろも何かを求めるように、その入り口がムズムズとしてきた。
「あっ……」
耳から輪郭、首筋へと、黒宮の舌に着々と身体を濡らされて、櫻井は目を閉じたまま天を仰いだ。もどかしさが理性を浸食し、櫻井は腰を揺すり始めた。
次の瞬間だった。
こめかみの辺りにゴツッ、とした鈍い衝撃。
櫻井の首はほぼ真横に傾いた。
「……え?」
何が起こったのか。
「ヴッ……!」
櫻井の理解が追いつく前に、今度は腹に強い勢いで何かが衝突した。
その瞬間に櫻井はやっと今の状況を認識した。いつの間にか立ち上がっていた黒宮の足が、櫻井の腹に食い込んでいた。
「っ……」
抗議の声も碌にあげられず、櫻井はベッドに倒れて腹を抱えた。口を閉じ、こみ上げてくるものを下へ押さえつけるので精いっぱいだった。
「っ、やめっ……!」
髪の毛から頭を持ち上げられ、櫻井は反射でわずかに抵抗したが敵わず、また脳天に拳を一発食らった。
「ぁ……」
視界が明滅する中、わずかに黒宮の姿を視界に捉えることが出来た。
黒宮は、至極落ち着いていた。櫻井はその表情と、その向こうに振りあげられた拳をはっきりと認識した。
狂ってる。
その言葉がぼんやりと頭に浮かぶ中、視界のど真ん中に飛んでくる拳を櫻井は見つめていた。
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