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✽日本一高い建物から見たいもの✽ 4
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ここから芳町は見えるだろうか。そんな事を思いながら覗いた遠眼鏡で、那由多は景色ではなく眼下に広がる町を見ていた。なれど見えるのは屋根ばかり。例え見えていたとてどれが燦然楼だか分かりはしない。
「......何を見てる?」
「燦然楼が見えぬものかと思うたのですが、ふふ、どれが燦然楼かなんて分かりませんね。詮無い事を致しました」
苦笑する那由多を見て近衛は小さく溜め息を吐く。燦然楼が見たいのではなく、きっと佐之助を見たいのだろう。
佐之助が那由多と逢わぬ理由は私に遠慮しての事なのではないだろうか。逢えぬ理由があるのでしょうと淋しげな顔で言うていた那由多を思い出せば、何とかしてやりたいと思うのだが。
ともあれ今は元気付けてやりたいと近衛は戯れてみる。
「そうだったのか。那由多も浅野と同じ事をしてるのかと思うたぞ」
「浅野様...?何をなされたのですか?」
そう問うと、近衛は私の耳に唇を寄せてきた。たいして客も多いわけでなし、聞かれてはまずい事なのかと思いながら耳を欹てると、
「...この遠眼鏡で吉原の中を覗き見してたんだ。房事が良う見えると騒いでいた。エレベーターに乗りたいと此処に誘ってきたのだが、きっとそれが目的だったのだな」
「ふふふふふふ、直接行かれたら宜しいものを」
「私も同じ事を言うたがな、人の房事を見るから面白いんだと戯けた事を吐かしていた」
「ふふふ、趣味が悪い。なれど、浅野様らしいです」
「暫く見ていたら結局、堪らなくなったと言って吉原へ飛んで行った」
その時の浅野がどんなだったかが手に取る様に分かり、那由多は可笑しゅうてならなかった。
近衛然り、浅野も今まで出会うてきた華族の者達とは違うて真に風変わりな御方だ。類は友を呼ぶという事なのだろうか。
ひたすら笑うている那由多を見ていた近衛はああ成る程なと一人納得した。
「あの時は浅野に呆れたが、確かに見ていると堪らない気持ちになるな、」
「ふふふ、篤忠様も吉原に行かれたくなりましたか?」
ぱっと見上げれば近衛は妙に艶っぽい顔をしていて、私は思わずぴたと笑うのを止めた。すると近衛はスーッと指の背を滑らし私の鼻筋と唇を順に撫でてきた。
「いや、私は吉原は見ていない。其方を見てる」
近衛のその表情と眼差しに胸が高鳴る。近衛は何時だって思うている事をはっきり言うて下さるのに、外だからだろうか、私はこの時何故かとても気恥ずかしゅうなり目を合わせていられなくなった。
「...さてと、私は富士の山でも見ることに致します」
顔に熱が集まるし心の臓が煩うて落ち着かない。言うて遠眼鏡を覗くも、近しい距離に居られる近衛が気になって気になって景色を楽しむ所ではなくなった。
「はは、耳が赤いぞ?」
「あ、篤忠様が!.....お戯れになられるからです、」
思わず近衛を見たものの、直ぐに顔をそむけゴニョゴニョと文句を告げる。あの目に映れば私の心の中など明け透けであろう。
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