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✽縦皺と横皺✽ 5
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「宮内省の人間だから何も話せないんじゃなかったっけ?」
忠嗣は笑うてそう揶揄した。
篤忠は先程はそう言うて父上に噛み付いたのにと可笑しくなる。本気で関わり合いたくないのなら放っておけば良いものを。
「内情を漏らしているわけではありません故」
「そう。心配には及ばないよ。家で阿呆なのは基家だけだと誰もが知ってる。ふふ、あれが本気で父上の為になると思うてやってるんだから救いようがないよね」
恐らく基家のこの行動は父上のご機嫌取り。此度の衆議院選挙で基家は苦戦を強いられた。その挽回にと、3年後の貴族院選挙を見据え動いているのだろう。
終身貴族院である父上には選挙は関係なくとも、会派の事を考えればそうはいかない。伯子男爵と多額納税者議員が7年の任期を終えて改選となり、70名が一挙に改選される子爵選挙では、選挙母体を有する研究会が圧倒的強さを発揮するだろう。そうすると研究会と反対の立場に立つことが多い父上には不利。
故に今のうちに支持者を集め、父上の会派を大きくできればと考えているに違いないが、完全に足を引っ張っていて笑える。
伯子男爵選挙は委託投票が許されていた上、記名完全連記制という選挙制度であった。
完全連記制とは、選挙すべき全員を連記するという特殊な選挙制度である。この制度は、ひとたび多数派の選挙母体が成立すると、少数派を完全に圧することが可能な制度だ。
忠嗣はきっと基家には忠告しないだろうと思うていた近衛は家忠を見つめており、家忠はふうと深い溜め息を吐いた。
「...基家の愚行は知っていた。なれど父上のお耳に入るまでと思うて放っておいたのだ。彼奴の行動は目に余る事が多いでな、そろそろ父上から灸を据えて頂こうと考えていたのだが...もうお話しした方が良いな」
陛下が知ったとあらば父上のお耳に入るのを待つ余裕はない。なれど今父上にこの事を告げれば基家は篤忠のせいだと逆恨みするだろう。もそっと早う動いておけば良かったと思うも今更どうにもならん。
思案げな家忠を見て何を迷っているか何となしに分かり、近衛は眉を下げる。
家忠兄さんは情に厚い。きっと私の事を案じてくれているのだろう。
「兄さんのお考えに気付かず勝手をして申し訳ありません。何も気にせず、兄さんから父上にお伝え下さい」
「兄さんが伝えたとしても基家に恨まれるよ?彼奴は篤忠を目の敵にしてるからね」
「...既に折り合いが悪いので今更です。気に為さらないで下さい」
忠嗣は家忠のせいで近衛が基家に恨まれる事になると強調した。それに気付き近衛はそう言葉を返したが、「すまん...」と詫びてきた家忠を見ていえと首を振るも、要らぬ心労をかける事になるなと近衛は悔いていた。
(...此度もどうやら俺の思惑通りにはならなそうだね)
近衛と家忠を見て忠嗣はそう思うていた。
兄弟でも隙あらばと忠嗣は常に何かを画策している。
華族や士族には長男相続制が規定されていて、父が今持つ公爵の地位も世襲財産も何れは家忠が受け継ぐ。それまでに政治家として確固たる地位を築きたいという思いが忠嗣にはある。故に近衛と家忠が密であるのはとても厄介なのだ。
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