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✽紅椿と懺悔✽ 3
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「那由多!?」
小走りに駆け出した那由多は裏へ周り、窓から屋敷の中を覗く。さゑは一人では外に出なかった。
ここから見る限り中に人影は無いが、焦る気持ちからか那由多は硝子を叩き声を掛けた。
「さゑ様!さゑ様居られませぬか!!」
広い屋敷だ。聞こえぬ所に居たらと考え、障子で中が見えない窓からも同じ様にしてさゑを呼びながら屋敷をぐるっと回る。
「...那由多、恐らくもう誰も住んでない」
「.........、」
はいと返事をしようと思うも、何かが喉につっかえた様に声が出なかった。「...行こう」と促され諦めて歩き出すと裏庭の花木が目に入ったが、そこも手入れがされておらず、剪定されなかったからか椿がびっしりと咲き乱れていた。
『正義様が、紅椿は私に似ていると。...だから紅椿を一番好いているの。正義様がそう言うてくれたから』
「...ふっ...っっ、」
頭に浮かんだ自嘲気味な笑みのさゑに、堪えきれず涙が溢れた。
自分だけを見てと主張するかの様に乱れ咲く紅椿はまるであの頃のさゑの心情の様。責め苦が重く伸し掛かり、立っている事が辛うなった。
「わあぁぁぁぁぁっ、」
へたり込み、堰を切ったように泣き出した那由多を支えるように立ち上がらせた近衛は、濡れ縁に那由多を腰掛けさせ隣に座った。
「私がさゑ様からっ、全てを奪ってしまいましたっ、...っ、どう、償えば良いのか、...っ、分かりませんっっ、」
近衛は掛ける言葉を見つけられずにいた。何を言うたとて気休めにしかならぬのであろう。那由多自らが望みここに来たわけではない。故に那由多にはどうする事も出来なかったと思う。それどころか、加藤家が華族としての体面を保つ為に那由多は客を取らされていたのだ。真は気に病む事などない。
「嫌でなければ少し吐き出して楽になれ。溜め込み過ぎるとここが悲鳴を上げるぞ」
言うて近衛は那由多の胸を撫でた。無理に聞き出そうとは思わないが、那由多が何故これほどまでにさゑに対して悔恨の念を抱くのか、それが知りたかった。
近衛の言葉に那由多は迷う。今まで詳しいことを話さなかったのは、醜い自分を見せて近衛に嫌われる事を恐れていたからだ。
ここに居た二年余り、私は燦然楼に居た頃よりも穢らわしく卑しい陰間に他ならなかった。
この一年、近衛から惜しみない愛情を注いでもらい、ぬくぬくと暮らしている。それを壊す事になるやもと考えると話すことがとても怖かった。
(......さゑ様は、私より怖かっであろうな)
『私の事は私が決める事。那由多、私の事は考えずに自分の未来を取りなさい』
最後になったあの日、さゑの芯の強さを見た。私は近衛の手を離しとう無くて、さゑを犠牲にしてでも此処から立ち去りたかった。
お話ししよう、全て。浅ましく醜い陰間であった私のしてきた事を包み隠さず。
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