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✽紅椿と懺悔✽ 6
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「私から、...っ、何時も加藤様の匂いがするとっ、...っっ、返してとっ、此処から出て行ってと、...っ、さゑ様の悲痛な訴えにっ、私は、どうしたら良いのか分からなくなったのですっっ」
『...っ、私が気付かないと思うて嘲笑っていたのでしょ!!正義様を返して!!出ていってよ!!...っ、此処から出ていってっ!!』
どんな思いを為さって居られたのか。あの日のさゑを思い出せば胸が苦しゅうてたまらなかった。
那由多は顔を覆うと暫く言葉も紡げぬ程に泣きじゃくった。
鼻を啜り、涙を拭うと意を決し、あの頃の自分が何を思い、どうしたのかを話し始めた。
「...誰にも必要とされていないのに、行き場もなく、誰も助けてはくれないと私は自棄になり、逃げたんです。考える事、抗う事、感情を出す事、誰かに必要とされたいと願う事。全てを諦めて、この目に映さず、この耳に入れず、一番楽な生き方をしようと決めたんです。...もう嫌だったんです、生きていく事だけで精一杯で、人の事になんて構えないと、そう決めたら、...息が、楽に出来るようになりました」
笑うているのに涙している那由多はそんな己を恥じているのだろうと思うた。心も身体も限界だったのだろう。加藤は心が痛まなかったのだろうか。あんなにも那由多に執着し、手放す事を躊躇っていたのに。側に居てくれさえすればそれで良かったのだろうか。
「それから、もっと生きやすくなる様にと、客を使うて色を匂わせ、加藤様の焦燥を煽りました。それまでは侮蔑の言葉を浴びせられていたのに、それからはまた好いていると言われ始め、内心ほくそ笑んでおりました。ああ、これでようやっと生きやすくなると。そうやって、元の自分が分からなくなるくらい仮初に身を賭した頃、篤忠様が、迎えに来て下さったんです」
那由多は久方振りに逢うた時と同じだった。話し始めてから一度も私を見ない。
『偽らねば生きてなどいかれませんでした!もうあの頃とは違うのです!あの頃の私はもう居りません、捨てたのです!!痛む心と共に』
そう言うたあの日の那由多を思い出していた。私が思うていたよりずっと過酷な日々を送っていたのだなと、こんなに経ってから知るとは情けない。悪いのは私だ。自分の誇りを優先し、那由多を不安にさせたのは紛れもなく私だ。
「...っ、なれど、逢いとうなかったっ、あんな私を、篤忠様には見られとうなかったっ、そう思うたのに、お側を離れとうなくてっ、さゑ様を犠牲にして、私は自分の幸せを選んだのですっ...んっ、」
近衛はあの日と同じ様に口付け口を塞いだ。那由多はもう十分過ぎるほど苦しんだはずだ。もうこれ以上苦しんで欲しくない。
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