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出会い
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願い事を叶えるためには代償が必要だ。まずは魔力、完璧な魔法陣、そして覚悟。
緻密に張り巡らされた陣の線へと、一筋の漏れもないように魔力を乗せていく。じりじりと陣に魔力が満たされるにつれて、お腹の底が冷えはじめる。
「ああ、これで……」
体内の魔力がすっからかんになる頃、ようやく魔法陣が光りはじめた。魔力不足でクラクラするが気力を振り絞り、陣の底を見通すようにじっと見つめる。
埃っぽい部屋でもないのに、光が霞んで見えた。来る。サーシェがそう直感した瞬間、突風が吹き荒れ、小さな部屋に詰め込まれた本がバサバサと大量に本棚から飛び出してきた。
フードがめくれて、サーシェの黄緑色の髪が露わになった。蜂蜜色の目をぎゅっと閉じて、頭を庇いながらしゃがみ込む。逃げ出したくなるような絶大な魔力の持ち主がすぐ側に現れたのを感じた。
「誰だ? 俺を呼んだのは」
迫力のある低音がビリビリと耳朶を打つ。めちゃくちゃになった部屋の中、大きな角と翼を持つ黒髪の美丈夫が、魔法陣の上で腕を組んでいた。
「あ……」
赤い瞳の中、縦に走る瞳孔に睨まれて息を飲む。実物の悪魔は本の挿絵よりずっと美しくて、恐ろしく存在感があった。
いや、呑まれている場合じゃない。サーシェは声を震わせながら自己紹介をした。
「僕はサーシェ。先日成人を迎え、見習いから五級魔法使いへと昇格しました」
「なるほど、なりたてか。どおりで旨みのない魔力だと思った」
ハッと笑われて鼻白む。拳を握り締めながら立ち上がった。身長差のせいで、前を向くと胸筋を見つめることになる。
(うわ……僕なんて一捻りで殺されてしまいそう)
あまりの逞しさに気が遠くなりそうだ。それでも、気力を振り絞って端正な顔を見上げた。彼は唇の端を吊り上げてニヒルに笑う。
「悪魔召喚なんてするくらいだから、お前には願い事があるのだろう」
「っ、そうです」
「叶えてほしいか?」
もちろんだ。そのために悪魔召喚という、禁じられた魔法に手を出したのだから。
「……はい。何に替えても」
「いい覚悟だ。では、まずは俺の願いを叶えてもらおう。満足すればお前の願いを叶えてやろう」
「はい」
悪魔に気に入られた召喚者が代償を支払えば、人の身では叶わない願いを聞いてくれると、禁断の書に書いてあった。
いったい何を求められるのだろう。固唾を呑んで返答を待っていると、彼はコウモリのような羽と角を消して、町人のような服装をまとってみせた。
「えっ?」
なにをするつもりだと混乱しているうちに、彼は小部屋を出ていこうとする。
「待って、えっと……」
「ラズと呼べ。外に出かけるぞ」
「え、そんな」
小部屋から出て、師匠の部屋をサッと覗く。痩せた老人の肩を揺さぶるが目覚めなかった。仕方ないとため息をついて、枕元に「出かけてきます」と書き置きを残す。
フードを被り直して、玄関へと迷いなく進む悪魔の背中を目掛けて走り出した。
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