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東京初日
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福岡空港からANAで羽田に降り立つ。
空は灰色でなんとなく不安な気持ちを助長した。
飛行機に酔っていた僕は足元がふらつくのを
「お願いだからしっかり歩け」
と祈るような気持ちで歩を進める。
初めての東京、知らない土地、ぼっちの状況、聞き慣れないイントネーション。
全てに不安を抱いた。実際泣きそうだった。
「こんな弱か人間やった!?」
と自分でもびっくりだ。
細い手足に透き通るような色白の肌、純粋な日本人のはずだが陽に当たると淡く輝く栗色の髪。
福岡では、日焼けで真っ黒な顔が当たり前な高校生だらけの中で異質な生き物だったと思う。
実際よくからかわれたし陰口も少なからずあった。
「あいつ女っぽくね?オカマやろ?」
僕にはまだ恋愛やエッチに対しては発展途上国だった。興味がまだわかなかった時期だった。男性だろうと女性だろうと知らんがな、だった。
ただ、そちらに頭をまわす余裕がなかったんだと思う。
心の中では反発もあった。
周囲の同級生と比べた時の身体的なコンプレックス。
「オカマなんかじゃない!!」
そう怒って返す自分の声が空虚だった。
福岡で生きていたくない。誰も自分を知らない土地で生きていきたい。
一人でいたい。
だから東京の大学を受験したのだ。
東京に降り立った今、僕が望んだ選択なのになんでこんなに辛いんだろう。
浜松町駅行きのモノレールの中から濁った東京の海と、灰色の空のコントラストを視界に入れながら卒業式の日の事を思う。
卒業式の日、式が終わると僕はすぐに校門を出て帰ろうとしていた。
最後のHRとか、みんなで記念の写メとか知るか、そんな想い出なんかお前らと作りたくないわ。
これからは僕が想い出を一緒に作る相手を探して選ぶ。
校門を出る時の晴れ晴れとした気持ち。
そこに自分の名前を呼ぶ声が背中の方から響いた。
「おい!お前窓から見とったら学校出て行こうとしとったけんさ!?なん、帰ると?」
同じクラスの人間ではない。
誰だ....
あぁ、同級生でサッカー部のキャプテンしとったっけ。確か体育祭でも同じブロックで応援団長もしてたか。
「帰るけど、なん?(なに)」
前方へとまっすぐ進んでいた体を止め、ゆるりと後ろのそいつを見ながら話した。多分冷たい目をしていたと思う。
「い.いや....まだHRとか。あとは最後だからまだ帰らんでみんな残っとるやろ」
色黒の顔にしゃべるたびこぼれる白い歯、切れ長の大きい瞳が狼狽しているのが見てとれる。
「用事がない。たいして仲良うもない。なんでクラスも一緒になった事もない、話もした事ない人に言われないけん」
自分よりも背の高い彼の顔を斜め上にまっすぐ見上げながら吐き捨てるように言った。
彼は驚いたような、悲しそうな表情をたたえて何か言いたそうにしていた。
そんな彼を無視して
「もうこんなとこ来たかない」
そう言ってまた前を向いて歩き出した時、彼が俺の前に立ちはだかった。
「な、なん!?」
僕は怯えた。
自分とは違う広い肩幅、硬そうな短く切られた髪、ゆるやかなカーブを描く筋肉質で色黒な体。
「俺...俺も東京の大学受かっとうったい。大学は違うっちゃけど...同じ東京だし友達ならん?話もしたことなかし、いきなりで驚くかもやろうけど俺はお前と友達なりたい。これから仲良うなりたい」
「.....は?」
僕はこの学校の同級生の男子からはいつも異質な目で見られてた。女子からももちろんだ。
「あいつオカマやけん、男と歩いとうとこ見た」
「あいつ綺麗な顔しとーけんさー、たくさんパパみたいなんおるらしいよ。金持っとーもんねー」
「やーだー、エロ?い。なん、そのエロゲー」
「あははは」
勝手に言っとれ。くそども。
「バカにするのもいい加減しろ」
「え?」
今までの怒りが暴走しだした。
「お前らは人んこと、オカマだの勝手な物語作って勝手に俺の事そんな風に作り上げて!!お前らと話した事もなか!街で遊んだ事もなか!なのに、なんでも知っとうみたいに陰口で嘘の話で馬鹿にする!笑う!お前もサッカー部の連中と、そげん話しして一緒に笑っとったの知っとうぞ!!何が友達かっ!!仲良くなりたかだっ!!僕は...」
涙がこぼれてしまいそうになる。
こんな言葉を吐いている僕も嫌だ。吐かせた福岡もこの高校も嫌だ。
僕を全否定される事に、本当に傷ついていたから。
「僕は!お前らが、福岡が嫌いだ!」
目の前の奴は、
「あれは.....」
と口を開いていた。しかしその後の言葉を聞く事もなく、彼の横を通り越して耳にイヤホンを装着して全てを遮断した。
周囲の世界を遮断した。
もうこんな涙流しとうなか。
ただそれだけだったんだ。
浜松町に着いた。
なんであの日の事思い出したんだろう。
山の手線に乗り換え、東京駅で中央線に乗り換えた。
なんとなく疲れていた。体が疲れているのか心が弱くなっていたのか。多分どっちもだと思う。
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