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新居
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中央線、中央特快で八王子まで。
福岡市内に住み、大きい地方都市だと思っていたが、やはり東京は規模が違う。
荷物を持つ手に力が入る。
なんとなく気をぬいたらいけないような気がした。
「遠足は家帰るまでが遠足やけん。まだ気をぬいたらいかん。荷物も盗まれたりせんように気をつけんと」
八王子までの道のりは長かった。
東京なのにこんなに田んぼとか川渡るのか?と景色が殺風景にどんどんなって行く。
でも兄さんが住むなら中心から離れたところに住んで遊びに行く時は中心に行くような生活がよかぞ、って言うとったからそうしたんだが。
果たしてあの言葉は、僕が東京に行く事を許された事へのささやかな嫉妬だったのかもしれない。
兄さんは東京の大学にも受かっていてそちらを希望したが、両親に猛反対されて地元の大学に通っている。
次は八王子、というアナウンスが流れる。降りる駅は次の駅の西八王子駅だ。
駅の北口に出て地図を見ながら新居についた。
外観はボロいアパートだが部屋の内装はリフォームされて真新しく感じる物件だ。
自分の入居する部屋のドアをガチャリと開ける。
右にある靴箱の二段目の板の裏にこの部屋の鍵がテープで貼り付けられていた。
大家には届く荷物もないし、立会いはいらないからとは伝えてはいた。
そうしたらこうなった。
「わざわざこちらに出向くのもめんどくさいでしょうから直接どうぞ」
入居する時ってこんなものなのだろうか。。。多分めんどくさかったのは大家だと思う。
とりあえず大家には部屋に到着した事を伝える為電話をした。
「松永です。今到着しました」
「あー、そうですか。遠いところお疲れ様でした。そうそう、松永さんの隣も新しく入居した学生さんで、福岡からだそうですよ。大学進学で上京したそうで」
「はい?そうなんですか....」
福岡という単語で気持ちが落ちる。
声のトーンが落ちた僕を疲れていると認識間違いをしたのだろう。
大家は、今日はゆっくり休んでくださいと言って電話を切った。
短いフローリングの廊下の右手には二口のガスコンロを置くステンレスの台所。
左手はバスとトイレと洗面台。セパレートタイプ。
短い廊下とワンルームをさえぎる扉を開けると、何もないフローリングのワンルームがあった。
手違いで荷物はまだ届いていないが明日には届く。一日位なら問題ない。
手に持った荷物を枕にして大の字に寝そべる。
白い蛍光灯の光をまばゆく見上げながら思う。
「これからが人生の始まりやけん」
今までのはなんだったのか、あれはなかったことで....と自分にボケと突っ込みを入れていた時に部屋のチャイムが鳴った。
「ふはっ!?」
驚いて変な声が漏れる。
インターホン越しではなく、扉越しに声が聞こえた。
「明かりが見えたけん、引っ越してきたと?隣たい」
ばり博多弁.....大家の言っていた隣の住人だろう。
荷物の中に、お隣さん用と大家さん用に引っ越しのお菓子を持って来ていたからちょうどいい。渡してしまおう。その後は関わりたくない。
博多弁だからだ。嫌な想い出を連想する。
「はい。今出ます」
扉をガチャリと開けると彼は立っていた。
「卒業式ぶりやね。そんなに日も経ってないけど」
僕は暗い顔をしていたと思う。
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