アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
述懐
-
俺は目の前に立つ松永の困ったような、戸惑っているような顔を見ながら思っていた。
「あぁ、間違いじゃない。俺こいつの事好いとる」.
松永の「痛い」と言う言葉に、我にかえって握りしめた手を離した時、残念に思った。
初めて手を握った事に、自分の武骨な手とは違う細い指に、その冷たい感触に、心臓が音をたてていた。
初めて触れて気持ちはさらに強くなった。
もっと知りたい。触れ合っていたい。
こんなに誰かの事を四六時中思ったのは初めての経験だった。
初めて松永と会ったのは入学式が終わって授業が始まった頃だった。
授業と授業の合間の休憩時間、教科書を忘れた俺が他のクラスの同じ中学から来た友達に借りに行く途中、廊下で松永は対面から歩いて来ていた。
人目をひく外見だったから自然と松永の姿を追っていた。
俺とは違う柔らかそうな髪の毛が太陽の光に照らされて金色に輝いて見えた。
色素の薄い肌の色が一層白く輝いている。
二重のくっきりした眼はどこを見ているのか、前にボケっと突っ立っている俺を通り越して遠くを見ているようだった。
松永の周囲だけが空気が違うように感じた。
言葉では表現しづらいが、孤高、いや、その言葉とも違うが松永は周囲の休み時間の喧騒も我関せず、ただ前だけ見てこちらに向かって歩いて来る。
手にはスケッチブックを持っていた。
次の授業が選択の美術の授業で教室移動をしているのだろう。
すれ違う際にふっ、と柔らかい匂いが鼻をつく。
瞳の色が太陽に反射して明るい茶色に染まっていた。
同じ男なのに全く違う体の匂い。
すれ違う時、180cmある俺から見ると松永は細く、華奢で小さく見えた。
それなのに存在感は今まで見た人間の中で唯一無二で、何故か心臓がチクリとするような感覚を持ったのだ。
あの日から、なにとはなしに松永の存在が気になり始めた。
松永はいつも一人だった。
誰とも会話をしている姿を見た事がなかった。
昼休みに、用事もないが松永の教室に行って同じサッカー部の連中をからかいつつ、松永の姿を探したが奴の姿はなかった。学食の食堂にもいない。
後日、松永の居場所に気づいた。
松永は誰もいない図書室で本を読み、昼休みが終わる15分前になると学食に移動し誰もいない食堂で一人で食事をしていた。
遅い時間の学食なんてほとんどメニューは残っていない。
松永はいつも売れ残りの、人気がない麺類を食べていた。
そのうち俺も同じように松永と同じ時間を見計らって学食で飯を食った。
しかし、一度として松永は俺を視線にとらえる事はなかった。じっと見つめていても気付こうとしない。気付いていない。
いつも一人なのに悲壮感も孤独も松永からは感じられなかった。
全てをこいつは遮断している、そう気づくのは早かった。
周囲の同級生が松永の事をいろいろ陰で言っているのは知っていた。
松永はそれをどうとらえているかは知らないが、自分達とは違う異質な者への畏怖と人並み以上の外見から来る妬み。
振り向いて欲しいと、わざといじわるをするような類のものだという事すら松永には興味もなければ遮断しているようだった。
そんな松永を知るたびにどんどん松永の存在が俺の中で大きくなっていった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 105