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述懐(2)
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松永を目で追う日々は一年を過ぎ、二年目に突入していた。
二年生になってからは進学校という事もあり、毎朝補習が全生徒に課せられる。
朝補習と授業が終わればサッカーの部活動、と忙しい日々の中で、松永を目で追う日々は二人の距離を少しも縮める事なく過ぎて行った。
そんな毎日の中、女子生徒からラブレターや告白を受ける事も多々あった。
その度に部活を理由にして断り続けたが、
「好きな人いるの?」
という質問に頭に浮かぶのは松永の顔だった。
俺とは正反対の異質な存在に対する興味と好奇心だと思っていた感情が恋だった、とその頃にはもう気付いていた。
グラウンドから帰宅部の松永が夕陽に照らされて一人歩いて帰る姿は見ていたが、登校する姿は一度も見たことがなかった。
お互い電車通学なのは知っていたが、同じ電車に乗ろうと乗る電車をずらしてみたりを繰り返してみたが、一度も同じになる事がない。
「松永どの時間の電車に乗ってるんだ?」
その答えが明らかになったのは二年生の冬の日だった。
サッカー部のキャプテンとして三年生になる前にやる事があった。
試合にも勝たなければならない、チームを統率していかなければいけない。
その為にその日は早く学校に着いて、朝補習前にスケジュールを組んだり練習内容の見直しの材料を準備しようと始発の電車に乗った。
始発の電車はほとんど人がいなかったが松永はその電車にいた。
「!?」
朝補習までに学校に着くには早過ぎる時間だ。
隣の誰もいない車両で、松永は一人黒の学生服にこげ茶色のコートを羽織って英単語の本を読んでいるようだった。
もしかしていつも始発の時間に電車に乗っているのか!?でも朝補習が始まるぎりぎりの時間にしか教室に現れなかったように思うけど...どこにいたんだ!?
松永はいつものように俺の存在など気付いてもおらず、最寄り駅に着くとすべるようになめらかにホームに降り立つ。
真っ暗な学校までの15分の道を歩き出した。
松永の後ろ姿を見ながら、付かず離れずの距離を保って歩く。
心もとない街灯の下を歩く松永の姿は闇と同化しそうな程はかなく感じた。
毎日誰もいないこの暗い道を松永は一人で歩いてたんだな、と思うと何故か心がざわついた。
「こんな寒くて暗い道一人で毎日歩いとっとか!?変なやつとか出たり危険な目にあっても誰も周囲におらんし、住宅街でもない田舎道なんぞ!お前はなんでいつも一人なんだよ!!」
と声をかけて引き止めたかった。
でも俺の言葉は松永には届かないだろう。
松永は誰にも興味がない。多分後ろからナイフを持った人間がすぐ背後にいたとしても歩調は変わらないだろう。
人と関わらずに生きて行く事は無理な世界だ。でも松永はそれに抗(あらが)って生きている。
学校に到着すると正門は人一人が通られる程にしか開いてなかったが、松永はいつもの事のようにすっと門の中に滑り込んだ。学校は明かりがどこにもついていない。
「用務員のおっさんも近所のおっさんやし校門と入口と職員室の鍵だけ開けただけで、あとは家帰ってるんだろうなぁ....」
と、どこにも明かりが灯っていない校舎を見ながら思った。
松永は靴を履き替えて自分たちの教室のある棟ではなく、専門の教室が入っている棟へと進んでいった。
「どこ行くんだ?」
松永の秘密に近づこうとしている状況に俺は松永に近づけた気持ちがして嬉しかった。
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