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カボチャ様
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長野はもう大丈夫だと思う。
長野はサッカーのサークルに入り、夏休みの間はバイトとサークルの練習にいそしむようになっていた。夜は一緒に過ごす時間もあるが昼間と夕方は僕は一人で過ごす時間が長くなった。
その日僕は学校に来ていた。
夏休みで全く人がいない。
園芸部の部室に入り、部室を片づけた後、畑に向かった。
園芸部の畑は体育棟に行く途中の坂道の土手の上にある。
この園芸部の土地は、園芸部の初代部長が大学にも土地を売ったこの辺りの地主の田中さんから直談判をして無償で借りたそうだ。
この初代部長とはいずれ僕は顔を合わせる時が来る。それは先の話になるけれど。
園芸部の土地は大学の敷地の横にあるが、実質は地主の田中さんという方の土地、ということだ。
田中さんには園芸部でお歳暮やお中元を持って行ったりして「いつもすいませーん」と挨拶はしている。そのたびに、田中さんは「頑張っているかい?」と好々爺(こうこうや)らしい皺くちゃの顔で笑ってはいるが。。。。。。
心中はどうだったんだろう。園芸部の畑の雑草や植えたものが放置されすぎて田中さんの土地を浸食しまくっていたからだ。
僕のいた頃の園芸部は種だけ
「それーっ!!」
と蒔(ま)いて後は放置。
その後の様子を見に行かないのでたまに畑に行くと大変な惨状になっている。
隣の田中さんの土地まで浸食して大変なことになっている。
僕は「あ、畑どうなってるんだろう」と思い出して久しぶりに園芸部の畑に行くとアマゾンと化していた。
「これは。。。。」
畑に自分の体より大きなカボチャが出来ていた。
なんでこうなった。面倒を見てなかったのになんでこんな気持ち悪いものが出来た。。。。どうしよう、見なかったことにしてここを立ち去りたい。
「すごいねぇ。よく育ったねぇ」
背丈以上ある雑草に隠れて気付かなかったが田中さんが隣の畑にいた。
「す・すいません。雑草が浸食しまくってて。。。すぐ刈ります」
立ち去れない。
軍手を装備して、鎌を持って必死に雑草と格闘する。
モリクミ、児玉!!畑見に来て!!大変なことになっとる!!
「このカボチャあれだねえ。そばの雑草や植えた物が枯れたのを栄養にしてどんどん大きくなったのかねえ」
「はぁ」
そう考えるとなんて恐ろしいカボチャだ。でもこれどうしよう。
モリクミと児玉に携帯で連絡を取る。
来週集まってカボチャを収穫する約束をした。
そして。
畑には僕とモリクミと児玉、そして何故か鎌田とお富さんもいた。
長野はバイト、吉野はテニスサークルの合宿でいなかった。
カボチャはさらに成長していた。
一同その異様な大きさと、周囲の作物を枯らして生き生きとしているカボチャに無言だった。
「これ園芸部に運びましょ」
「ええっ!?これ運ぶんですか!?」
「あーん、松永くーん。このカボチャ様、園芸部の目玉にしましょ!!」
これ運べるのか?いつの間にか《様》ってつけられてる。
台車に乗せようと僕と児玉、鎌田、モリクミで持ち上げようとするが持ち上がらない。
「なんでこんな重いんだよー!!なんで僕まで付き合わなきゃいけなんだよー!!」
「鎌田!しゃべってないで力出して!!ひぃいい!!あーん、松永くーんカボチャ様の重みに負けそう、あたし負けそう!!」
「・・・・重い」
「松永君、大丈夫?お富さん、お富さんも持って」
「私も!?って児玉、私写真部なんですけど」
総勢5人で持ってなんとかカボチャ様が地面から浮いた。
台車に乗せて園芸部に向かう途中。
台車が壊れた。
「ひぃいいいい!!カボチャ様つぇえええ!!」
鎌田が台車から転がり落ちそうなカボチャ様を体で必死に押さえていた。
台車の板がカボチャの重みで割れて今にも坂道をカボチャ様が転げ落ちて行きそうだった。
「やーん!!どーしよ!?この台車、学校の備品!!ばれたらまた請求書来る!!」
「モリクミ、どうすんの?」
お富さんが疲れた表情で聞く。
「こうなったら台車をもう1台盗んでくるのよ!!壊れたら目に付かないそのあたりの藪(やぶ)に廃棄!!また壊れたら廃棄!!でピストン輸送よ!!」
また、ってなんだ。前にも学校から請求書が来ることあったのか。
児玉が急いで2台目の台車をどこからか持って来てカボチャ様をそれで運ぶ。
2台目は壊れずに園芸部まで運ぶことが出来た。
疲れで一同無言。
カボチャ様、僕の腰以上の高さあるけどこれどうするんだろう。
「これ座れるね」
カボチャ様の上に座る鎌田。
「てめぇええ!!園芸部の血と涙の結晶のカボチャ様の上に座るんじゃねえええ!!」
モリクミが鎌田をカボチャ様から叩き落していた。
いやいや、モリクミも児玉も僕もカボチャの種蒔いた後、それ以降見に行ってなかっただろう。
4月に入学して園芸部に入って、一度畑を見に行って種を蒔いたから・・・今は8月下旬。5か月近く放置していたことになる。
カボチャ様は園芸部の部室の扉前に鎮座して、その異様な姿を、他のサークルの人達に存在感をアピールした。
「これなんですか?」
「カボチャです」
知らないサークルの人から声をかけられるたび、答えるのが恥ずかしかった。悪いクセで全てを拒絶したくなる。
たまにカボチャ様の上に着ぐるみを着たモリクミが座っているとさらに異様さは増した。
「また園芸部が何かしてる」
そんな他サークルがドン引きしている中、悪い意味で目玉になっていた。
長野がバイトもサークルも休みで園芸部に来た時、カボチャ様が扉前に居座っているのを見て
「なんだこれは?」
と言うので
「カボチャ」
と答える。
「食えるの?」
「え?」
これ食べれるの?
長野の一言でカボチャ様は食べられる存在であることを思い出した。
「あーん、長野くーん会いたかったー!!」
「おぅ、モリクミは相変わらず太ましいな」
「やーん、ありがとー!!」
「モリクミ褒められてないと思うよー」
「黙れ、鎌田。でー、このカボチャ様どうするの?カボチャだから食べられるの忘れてた」
「先輩、これ食べたいと思います?」
僕の言葉にその場にいたモリクミ、児玉、長野、鎌田、吉野が一斉に素の顔になる。
なんだかこれ食べたくない。そう思わせる変なオーラがカボチャ様にはあった。
「児玉ー!!サークル備品庫に園芸部の鉈(なた)あったよねー。学生部に許可書申請して取って来てー」
「ええっ!?」
モリクミ先輩やる気だ。
程なくして鉈は運び込まれた。
モリクミ先輩は鉈が運び込まれる前に着替えていた。
「モリクミ先輩、その服は?」
「八墓村をイメージしました」
鉈を持つと怖さは倍増した。
お願いだからこっちを見ないで欲しい。
そしてそんな服を毎回どこで仕込んでいるんだ。
「んじゃカボチャ様、死ねぇえええ」
と鉈をカボチャに振り下ろすモリクミ。
が、カボチャ様は強かった。
鉈がささった状態でビクともしない。
「やるわね。。。カボチャ様」
モリクミがガスガス鉈を振り下ろす。
「モリクミ、怖ぇーよ」
「あーん、長野くーん。松永くーん。待っててねー。すぐ二人の為にカボチャ様にとどめさすからー」
「なんで俺の為?」
「カボチャの煮物を・・・ってあ?」
カボチャの鉈で刻まれた隙間から一瞬、虫の姿が見えた。
「児玉!!台車を!!」
「ええっ!?」
「カボチャ様からなんか生まれようとしてるー!!鎌田ラップ!!ラップで生まれるのを阻止するのよ!!カボチャ様を廃棄する!!」
カボチャ様の中から何か出て来ようとしているらしい。
僕は見たくなかったので目をそらしていたが。
カボチャ様を新聞とラップでコーティングして、力の強い長野と吉野もいたのですぐに台車に乗せ、校舎の裏手の人目につかない藪の中に
「どりゃああああ!!」
とモリクミ先輩は台車ごと投げ込んだ。
「ふー、危なかったわね」
振り返る八墓村の爽やかな笑顔がシュールだった。
いいんだろうか。。。。。学生部の職員にばれたら何か言われるんじゃないだろうか。
モリクミ。モリクミが運ぼうとか言わなければこんな面倒なことには。
カボチャ様の中に何かすごいのがいたっぽい。恐ろしい。
その後、園芸部で鍋をして、その日は長野は次の日バイトということもありあまり飲んでいなかったが二人の帰り道で
「松永、園芸部辞めれば?あいつらおかしいぞ」
と笑顔ではあるが結構本気で僕に言っていた。
ああ、長野がふつーになって来ている。
これがふつーの人の反応だよね。
長野がバイト先の人たちやサークルの人たちと仲良くなっていって、昔の高校時代の時のような長野に戻って行ってるんだろうなあ。
誰からも愛されて、笑顔の似合う元気な、みんなの長野に。
園芸部も辞めちゃうのかもなぁ。
結局僕らは長野とは住む世界が違うのかもしれない。
人通りのない夜道を
「手つなご」
と長野に言われて恋人つなぎで歩く。
長野覚えててくれるといいな。
園芸部のこともモリクミのことも児玉のことも鎌田のこともお富さんのことも吉野のことも。
ずっと先の未来にそんなことあった、って懐かしんでくれたらいいなあ。
僕のことも覚えててくれるかなあ。
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