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カミングアウト
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夏休みも終わり大学が始まった。
俺は授業にも出るようになったし、授業が終わればバイトのある日はバイト、バイトがない日にはサークルの活動とかも夜に入るようになった。
自然と関わる人間が増えて行く。
バイト先で知り合って同じサークルの戸田とは仲良くなった。
違う学部だが、授業が同じものが多かった。昼飯も一緒に食うようになっていた。
サッカーのサークルの人間とつるむことも増えた。
サークル以外にもクラスの人間との交流も増えて行く。
サークルのミーティングと称した飲み会も増えた。クラスの飲み会にも参加するようになった。
「松永、今日サークルの飲み会あるけん帰るの遅れる。ご飯食べとっていいよ、俺いらん」
「うん。楽しんで来ぃー」
松永に携帯で伝えて、終電で帰る日も最近は多い。
家が大学に近ければなあ、とたまに思う時があった。
園芸部には最近顔を出していない。
そう言えば松永の大学の文化祭がそろそろあるから準備せな、って言ってたなあ。
今度時間を作って顔出そう。
松永と過ごす時間の中で俺の携帯のメールや電話が鳴る回数が増えた。
「あー、明日?いやー、明日はちょっとあれやなあ」
俺が松永の前で電話で話をしている間、松永は笑顔で
「行って来(き)ぃー」
と声に出さず笑顔と口の言葉で俺に伝える。
明日は松永と買い物の約束をしていたが、松永がそう言ってくれるなら。
今度行けばいいか。
松永の携帯はほとんど鳴らない。
園芸部とお富さん、鎌田、吉野以外には交流を持とうとしていないようだった。
松永は土曜日には午前中に体育の授業の為に出て行き、そのまま園芸部に顔を出しているのだろう、夜まで帰って来ていないようだ。
俺は園芸部について行くことがなくなり、サークルの練習に向かい、夜は飲み会に出るという感じだ。
「長野ー。早くお前の彼女紹介してよー。奈々子も会いたいってさー。ダブルデートしようよー」
飲み会で戸田が声をかけて来る。
「そうやね。そのうちな」
彼女はいる、と伝えていた。
彼女じゃなく、彼氏なんだが。
戸田には本当のことを伝えてもいいと思い始めていた。
それだけ戸田と仲良くなっていた。
ただ、松永の言葉が思い出される。
「僕たちは間違ったことは何もしてない。だけど理解出来ない人もいるから。だから周囲の人をよく見て。理解しているように見せて違う人たちもいるから」
戸田とのこの交流も変化するのかもしれない。
戸田の彼女の奈々子も友達だ。戸田と同じ学部にいて、同じクラスの授業を受けていて戸田から告白して付き合ったらしい。性格の優しい可愛い子だと思う。
「長野イケメンだからなー。彼女もすごい美人なんだろうなー」
「ああ、美人だ。俺にはもったいない位に」
「奈々子も彼女さんと友達になりたい、って言うから早く会わせてくれよー」
「そっか」
俺は携帯を取り出す。
「戸田。お前は俺の東京来てからの親友やけん、もう嘘吐くの疲れた」
「?」
「内緒、してくれるか?」
「何が?」
「内緒にしてくれるか?」
「ああ」
俺の表情を見て戸田は真面目に答える。
戸田に携帯の画面を見せる。
「うわぁ、長野に劣らず違うタイプのイケメンだなあ」
「俺の好きな人。今付き合っとる」
「え?」
「俺の彼氏」
戸田が一瞬、戸惑った表情をした。
その後、戸田は大爆笑した。
「長野、お前こんなイケメン捕まえてたのか!!ワハハハハ!!!イケメンカップルだなああ」
「おぅ?お前驚かんの?」
「別に。男好きだったのか、長野。知らなくてすまなかった。俺たち知らずに長野に余計な言葉言ってたね。すまん」
ああ、理解してくれる側だった。言ってよかった。
もう嘘を吐きたくなかった。
「うわぁー、でもほんとイケメンだなあ。奈々子会いたがるなぁ。前々から言ってるけどダブルデートしようよ。奈々子も喜ぶし」
「松永に聞かんと分からん」
「松永君って言うんだ。本当に綺麗な顔しているなあ。ハーフ?」
「いや、違う」
「そうかー。長野の好きになった人ならいい人なんだろう?」
「おぅ。いいやつだ。どうしようもなくいいやつだ。愛しとる」
酔っぱらっていた俺は松永との馴れ初めを戸田にずっと話をしていた。
堰(せき)を切るように言葉が出て来る。
今まで嘘を吐かなくてはいけなかったことが辛かったのかもしれない。
戸田はニコニコしながら話を聞いてくれた。
「今日帰って松永に聞いてみる」
「うん、俺と奈々子も楽しみにしてるから絶対言いくるめて連れて来てくれ!!」
話の中で松永のキャラクターを十分に理解した戸田は松永の絶対拒絶を落として連れて来てくれ!と笑顔で言った。
帰宅して、いつものように松永が部屋で起きて待っていた。
「松永ー!!」
「お帰り。酔っとーね」
松永の膝の上に頭を乗せる。
酔っている時は松永に膝枕してもらうと安心した。
心地いい。
松永が酔った俺の頬をさすって、頭を撫でて来る。
「長野嬉しそうだけどどうしたの?」
「俺、友達に松永のこと彼氏って暴露した」
「え?」
「大学の中で一番の友達なんだ」
「そう」
「今度そいつとそいつの彼女とダブルデートしよう、って誘われたんだ。前々から誘われてたんやけどお前と、男と、付き合っとるって言えんでさ。で、そいつ戸田って言うっちゃけど」
「うん」
「それでもダブルデートしたいって!!お前に会いたいって」
「そう」
「だめ?」
「いいよ」
すんなりだった。
「いいん?」
「うん、いいよ」
「嫌じゃないん?初めて会うやつやし、松永と知り合いでもなかし」
「いいよ。長野嬉しそうだから」
「おぅ?」
「長野が嬉しそうだから。長野が嬉しいと僕も嬉しい」
今思うと無理していたんだろう、と思う。
少しずつ、俺の日常が松永を傷つけていたのかもしれない。本人はいまだに何も言わないけれど。
でもその時の俺は嬉しさに満ちていて気付かなかった。
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