アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
宴(うたげ)前
-
その日は園芸部の部室で何を文化祭でするかで話合っていた。
モリクミ、児玉、お富さん、鎌田、僕がテーブルについていた。
「松永君。長野君は?」
「バイトで、その後はサークルだそうです」
「そうなの」
お富さんの目が僕を捕えていた。鎌田も僕を見ている。
何か言いた気な二人の表情から目をそらした。
この視線は嫌だ。
長野が忙しくて園芸部に来ていないこともそうだが、二人の関係に関して何か言いたそうなのと、二人のことに関して追求しようとしているのを感じた。
友達って多分、こういうことにも口を出してくるものなんだろう。
なんとなく理解はしているが、僕は拒絶をする。
「あーん、長野くーん来ないから寂しいー!!」
モリクミが大声を出す。
お富さんと鎌田と僕の間に流れていた変な空気が霧散(むさん)した。
「さて、園芸部では何をしようか」
児玉が実行委員会に出す企画書を手に全員に尋ねる。
「とりあえずー、この実行委員会の企画書なんてクソよ。毎回《その企画で何がしたいのか?》とか《どうしてそれをしなければいけないのか?》とかアホよね。文化祭だから楽しめばいいのよ。なーんでこんな小難しくするかしら」
モリクミが企画書を児玉から奪い取り手でヒラヒラさせていた。
「まあ、そうだけどそれ書かないと委員会から許可が出ないし。出店も出来ないからねえ」
鎌田がモリクミをなだめる。
「ふん、あたしの目的は毎年決まってんのよ」
「モリクミ、その目的ってなんなのよ?」
「お富ー。あたしの目的はテニスサークルの連中に儲けさせないことよ」
「は?」
「テニスサークルの連中、どうせ焼きそばとかおでんとかをぼったくり値段で売ってその売り上げを打ち上げと称した飲み会&ハレンチな展開にする魂胆でしょ。今年もつぶしてやるわ!!大赤字にさせてやるわ!!園芸部の怖さ思い知るがいい!!売れ残りを自分らで喰いやがれ!!」
モリクミは何かをするつもりだ。
だから園芸部は他のサークルから怖がられてるんじゃないだろうか。。。。。
「で、モリクミ。何する?」
児玉がモリクミから紙をまた取り返してペンを持つ。
「ラーメンにしましょ」
「ラーメンですか?」
文化祭の出し物でラーメンなんて出すものなんだろうか。あんまり聞いたことないが。
「そうよー。長野くーんと松永くーんが出身福岡じゃなーい。博多ラーメン作りましょー」
「えーと、ラーメンどこから仕入れるんですか?」
「松永くーん。お金は児玉とあたしが出すわー。空輸して」
「ええっ!?お金!?」
モリクミ、児玉が今初めて聞いたっていう反応してるけど。。。。
「東京で売っていないような、ラーメンを仕入れてそれ作ればいいわよ。博多ラーメンで他サークルをぶちのめしましょ。松永君お願い出来るかしら」
「はい。スーパーでも生麺で安いのを売っているのを見たことがあるので、ネットで調べておくか、来週の週末に福岡に戻った時にダンボールで買ってみます」
「あーん。松永くーん、ありがとーう!!児玉!!企画はそれで。あと理由は適当に大義名分書いとけばいいわ。早く書いてしまって!!試算して提出しに行きましょ。あの眼鏡軍団に」
多分、眼鏡軍団というのが実行委員会の人たちのことだろう。
「松永君、福岡に帰るの?」
鎌田が僕を見る。
「ええ、少し用事があるので。2、3日だけですけど。お土産買って来ます」
「その用事って?」
「たいしたことではないです」
曖昧に微笑んで答えなかった。
僕の顔を見ていた鎌田はそれ以上何も聞かなかった。
園芸部の扉がコンコンとノックされた。
「誰?」
モリクミが扉に向かって声をかける。
扉が開いて知らない男女が立っていた。
「こんにちはー。初めまして、企画サークルの○○○○ですー」
男が僕たちに挨拶をする。
「ああ、知ってる。企画サークルの○○○○が何の用かしらーん?今、ミーティング中だから忙しいんだけどー」
モリクミ、なんでそう誰に対しても偉そうなんだ。。。。。
「実は今度の文化祭、サークル討論会とサークル紹介を企画していて。園芸部さんにも出て欲しいなーと」
女性がチラシをモリクミに渡す。
モリクミは渡されたチラシをササッと流し読みする。
「テニスサークル系全部参加してるのね」
「ええ、まだサークルに入っていない人にも入りやすいように、とかで。後はお互いのサークル同士の横のつながりを深めようというのも目的にはあるんですが」
モリクミのチラシを見る目が険しい。
お富さんに急かされてそのチラシをお富さんに渡す。
「なんでこんな弱小の園芸部を?他に出るサークルは全部大所帯ばかりみたいだけど」
お富さんは出演サークルの名前を見て尋ねた。
「いや、目玉がないと言うか。。。。園芸部さんなら何かハプニングや楽しいことしてくださるかなーと」
男はモリクミを見ながら愛想笑いをしている。
つまり、園芸部をダシにしてその企画を成功させようということか。
「あらーん、園芸部を出して後悔しても知らないわよー」
「構いません、存分に暴れて下さって結構です」
「そうー?後で文句言わないでねー」
「出て頂けますか?」
「ええ。いいわよ」
「ありがとうございます!!企画が決まり次第、進行の内容を企画書にして渡しに来ます」
企画サークルの男女二人は頭を下げて園芸部の部室を後にした。
モリクミがニヤァと笑う。
うわぁ。。。。。あの人たちこの人の怖さを知らない。
モリクミ、変なことばかりをしている人と思って楽しそうだから出そう、って担ぎ出したんだろうけど。何も分かっていない。
テニスサークル系が全部出るってことはつまり。
モリクミ、全力で企画ごと叩きのめすんだろうなあ。
モリクミの底力を知らないから・・・・・。
企画サークルの人後悔するだろうなあ。サークルつぶれなければいいけど。
「やーん。今年は楽しめそうー」
「モリクミ、今さっきすごい怖い笑顔浮かべてなかった?」
「黙れ、鎌田!!あんたら演劇部何すんのよ!?」
「僕たちは劇と青空上映会を企画してるよ」
「ふん!!お富のところは写真の展示会?」
「そうそう」
児玉は黙々と企画書を書き込んでいた。
企画書を実行委員会の部屋にみんなで持って行く。
部屋の中の眼鏡率は高かった。
確かに眼鏡軍団だ。
「どーもー、園芸部でーす」
「ああ、園芸部さん」
眼鏡の女がモリクミに微笑みかける。
あれ?他のサークルの人みたいに怖がっていない。
席について眼鏡の女実行委員は企画書に目を通して行く。
「園芸部さん今年は博多ラーメンですかー。おいしそう」
「でしょー。出店の場所、いい場所キープさせて」
「えー」
「いいじゃなーい。ラーメン、みんなにタダで出前しに行くからー。なんだったら着ぐるみ来て風船無料で配るってーのもいいわ。去年はガキ連れ多かったよねー」
モリクミ、相手は4年生の委員会の人なのにタメ口なのか。
「もうー、困っちゃうなあ。園芸部さんの出すご飯おいしいからなー。お世話になってるしなー」
眼鏡の女実行委員は後ろに控える他の実行委員を見た。みんな軽く頷く。
大人の事情。
こうやって園芸部は権力を買収して来たのか。
モリクミやり手だ。
プロパンガスの許可申請とかその他もろもろの手続きも終え、眼鏡の女実行委員は企画書にハンコを押した。場所は一番目立つところだった。
「あーはははは!!ちょろい!!実行委員ちょろい!!」
モリクミの高笑いがサークルの入っている棟に響く。
そばを通っていた学生がビクッ!!としたのが見えた。
「さて、今年も許可が出たことだし、松永くーん!!も初参加だし、いい文化祭にしましょうね!!」
「は・はい・・・・・」
嫌な予感しかしない。
そんな一抹の不安を感じていた。それだけのせいではなかったんだけれど。
不安。
明日は長野の友達とダブルデートの約束の日だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
50 / 105