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正義の味方
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男の子に胸の温かさを貰ってから暫くパトロールを続けたけれども、彼の他に困っていそうな人は見当たらなかった。
困っている人が居ないということは、皆が今日も楽しく暮らせているという事だ。
良かった。
ほっと胸を撫で下ろして、そろそろパン工場に着くな、と思いながら飛んでいると、どこからか視線を感じた様な気がしてそちらを振り返ってみると、その人を見た途端に僕が困っている人になってしまった。
「ばいきんまん······」
ばいきんまんは僕に気付いているのかいないのか、身体はこっちを向いているけれど、目は伏せっていて何処を見ているのかは分からない。
すると、ばいきんまんが急に頭を抱えだして、突然のことに驚いて何も出来ずにいると、また急に顔を上げたばいきんまんと目が合った。
その目は僕を見ると、驚いたように大きく見開かれて、次第に困ったように眉根が下がっていく。
終いには目が潤んで、泣き出しそうになってしまった。
そんな顔をみたら、嫌われている、だとか、僕が心配しても迷惑だろう、とか、そんな事よりも、ばいきんまんに何かあったのかもしれない、苦しんでいるかもしれない、困っているかもしれない、という気持ちが強く出たのか、思わず身体がばいきんまんへ手を伸ばそうとした。
それを捉えた瞬間、ばいきんまんが弾かれたようにUFOを操作して物凄いスピードで僕の前から遠ざかっていった。
「ばいきんまん!」
僕が声の限り叫んでもばいきんまんは振り向かないで、思わず伸ばした手が届く訳もなく、ただ僕に背を向けて、ばいきんまんは僕の目の前からいなくなってしまった。
あの夢と同じように。
それは、明らかな拒絶だった。
ただ1人残された僕は、中空に静止していた。
頬に水滴がつたったので、不味いな雨か、帰らなくちゃ、と思って辺りを見回すと、まるで水の中から見ているみたいにぐにゃりと歪んでボヤけていた。
ああ、そうか、雨が降ってきたんじゃなくて、僕が泣いているのか。
頭で理解して、やっと目が熱を持っていることやぼろぼろと目から雫が零れていっていることに気が付いた。
だから、何で僕が泣いているんだ。
本当に泣きたいのは、ばいきんまんのはずなのに。
今頃ばいきんまんは、泣いているかもしれないのに。
だらしない奴め。
と、心の中で自分を嗤ってやっても涙はとめどなく溢れてきて。
どうしようもなくなった僕は、涙が枯れるまでその場で誰にも見られることなく、泣き続けた。
好きな人を泣かせる事しか出来ないなんて、こんな奴が、正義の味方なわけがあるもんか。
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