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怖いという気持ち。
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「ありがとうございましたー」
仕事帰りだろう疲れた背中をしたサラリーマン風の客を見送る。
何事もなかったようにバイト先のレジに立っている現状に、ほんの数時間前に起きた出来事は夢だったのではないかと思えた。
あの後は、もうほんとにすごかった。
初めて見る大乱闘は衝撃的としか言いようがなくて、怖いと思いながらも目を離すことは出来なかった。
20人近くいた不良たちを次から次へと倒していく4人に、変な話、ほんとに不良の頂点にいる人たちなんだって感心してしまった。
壱也さんはもちろん、先輩たちはみんなものすごく強かった。
ちょっと怖いと思ったのは内緒。
でもそんな中、赤城の仲間が一人逃げ出してきた。
扉のところにいたから当然気付かれるわけで。
「お前さっきの、」
ニヤッと笑ったそいつは矛先を俺に向けてきて、伸びてくる腕に反応出来なかった俺は簡単に捕まってしまった。
「はっ離せッ」
さっきの恐怖を思い出して軽くパニックになってしまった俺は、そいつ腕から逃れようと必死でもがいた。
振りほどけない強い力にいよいよ泣きそうになる。
「稜太!頭下げろ!!」
切迫したマコトの声にほとんど反射で頭を下げた瞬間、ちょうど頭の上から聞こえてくる鈍くも激しい音に一瞬思考がフリーズした。
同時に解放される体、そして倒れ込む背後の男。そして、正面には見事なまでの回し蹴りを披露したマコト。
「大丈夫か!?」
「う、うん」
無意識に返事はしたものの、再びパニックに陥ったことは言わずともお分かりだろう。
マコトがそいつをのしてしまったということもあって、この友人を怒らせることはやめようと固く誓ったのは言うまでもない。
乱闘のせいで砂埃が舞う倉庫に静寂が訪れるのにそんなに時間はかからなかった。
大勢いた不良たちは静まり返った倉庫内に転がっていて、当然赤城もその中の一人になっていた。
しかし、違ったのは壱也さんに胸倉を掴まれていたこと。
表情は見えないけど壱也さんは何かを赤城に言ってるようで、低い声がかろうじて聞こえてきたけど何を言ってるのかは聞き取れなかった。
声が止んで壱也さんがその胸倉から手を放すと赤城の身体は力なく地面に崩れた。
それからすぐに先輩たちは出て来て、扉の外で待っていた俺に気付いた壱也さんは普段通りの優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫か」
「、、、はい」
ぽんぽんと頭を撫でられて全部終わったんだって思ったら、一気に気が抜けてまた涙が零れた。
それからしばらくみんなに宥められて、落ち着いた頃にはバイトには間に合わないなって時間で。
遅刻して行こうと思っていたら、壱也さんにバイクで送ってもらって今に至る。
放課後の一件で今日が悪い意味で忘れられない日になってしまった。
不良という人種と今まで無縁だった自分があんな巻き込まれ方をしたこと。
それに、初めて見たわけでもないのに、喧嘩をする壱也さんに少し怖いと思う気持ちが芽生えてしまったこと。
普段優しい分、余計にそう思ってしまったんだと思うけど。
頭を撫でられる瞬間、身体が強張ってしまった自分にかなりショックを受けた。
触れられてしまえば大きなあの手に安心していて、矛盾している自分に余計に混乱している状態。
「はあ、、、」
頭の中がいっぱいで考えることを放棄した俺は、バイトに専念しようと姿勢を正した。
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