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タツさんという人。
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「稜太くん、そろそろナビお願いしていいですか?」
「あっ、はい、えっと、次の交差点をですね…」
…驚いた。
言われて外を見れば、いつの間にかバイト先のコンビニの近くまで来ていた。
道案内しつつちょっとタツさんという人は不思議な人だと思った。
会ってそこ10分ちょっとだというのに完全に緊張も警戒心も無くなっていた。
壱也さんの知り合いだし、元からそんなに警戒なんてしてないけども。
でもやっぱ親しくない人と密室に二人って気まずいじゃん?
見た目もちょっと如何にもな感じだし。
しかも変なところ見られてるし。
でもそんなの全然気にならないくらいタツさんはすごく話しやすい人だった。
実はちょっと人見知りしてしまう俺にとって初対面でこんなに話せるのは珍しいことなのだ。
聞いた話だとタツさんは壱也さんとフジさん以外にも銀司さん、まこっちゃんのお兄さん、馨さんとも交流があるとか。
それから年齢は23歳で、職業はいわゆる何でも屋さんらしい。
仕事内容は色々で、掃除、洗濯、引越しの手伝いとか、代行役とか浮気調査とかあるんだって。
何かこういう職種の人って初めて会ったからちょっと?いや、かなり興味持っちゃったりして。
今日はストーカー対策?の仕事が入っててこういう怖い人風な服装をしてるんだそうで。
私服じゃないですよと強く念を押された。
あと、壱也さんに敬語を使うのは壱也さんに多大なる恩があるかららしい。
一体どういう恩なのかはタイミング逃して聞けなかったけど。
その話を聞いて俺にまで敬語は使わないでほしいと一応言ってみたけど壱也さんの大事な人だからと即却下された
そこで俺赤面。
それをバックミラー越しに見られて、またタツさんに笑われたり。
なんか、不思議と落ち着くこの空気感が少し、壱也さんに似てるなって思ったり。
「あ、次の角左です」
「了解です」
「す、すみません…、こんなことまで…」
「いえいえ、壱也さんの大事な人を濡らすわけにいきませんから」
「……っ」
懲りずに赤面する俺を見て、ふふっと笑ったタツさんの手には黒い傘。
やっぱりそういう言葉は恥ずかしい、というかどうしても照れるんだよなぁ。
家の前に車を止めてもらって、降りようとしたところでタツさんに引き止められて何だろうと思ったら、これだ。
慣れないこの扱いに俺は戸惑うばかり。
わざわざ雨の中車から降りて傘まで差してくれて、タツさんはとことん親切な人だった。
「ほんとにありがとうございました」
「気にしないでください」
玄関先まで辿りついて、俺は深々と頭を下げた。
タツさんのこの気遣いに女の子だったら絶対ころっとオチてしまうんじゃないかと本気で思う。
しかもこの顔だし。
「ああ、そうだ、稜太くん」
「え、」
おもむろにタツさんが俺に一枚の紙を手渡した。
見ればそれは名刺で、店名とタツさんの名前、連絡先とかが書いてある。
「何かあったら連絡してください」
「え、」
「依頼とかじゃなくて、困ったことがあったら何でも。最優先させてもらいますから」
「は、はあ…」
「それと、はい」
「え、」
これ、という言葉とともに手の上にぽとっと何かが置かれる。
「…御守り、ですか?」
「はい。俺の店でお客さんにあげてるやつなんですけど、お近づきのしるしにってことでもらってください」
「へぇ~、かなりデザイン凝ってますね。あ、ほんとだ。お店の名前入ってる」
「けっこう評判良いんで開運の御守りってことで使ってくれると嬉しいです」
「も、もちろん使わせていただきます!ありがとうございますっ」
「いえ、大したものじゃないですから。早くお友達と仲直りできるといいですね」
「……あ、」
壱也さんが言ってたの聞こえてたんだ。
何だか気をつかわせてしまったみたいで申し訳ない。
小さくお礼の言葉をこぼす俺にタツさんはにっこりと笑った。
タツさんの気配りに絶対蓮と和解しなくては、と一人意気込む俺だった。
「じゃあ、俺戻りますね」
「あ、はい!ほんとにお世話になりました!」
「いえ、それじゃ失礼します」
にっこりと笑って、小さく頭を下げたタツさんが車へと歩き出す。
その背中にもう一度お礼を言うと少しだけ振り返ったタツさんはまた小さく頭を下げて、車に乗り込んだ。
走り去る車を見送って、案外楽しかったとはいえ、慌ただしい時間から解放されたせいか無意識に小さく息を吐き出した。
急に予定が無くなってすることがない俺は暢気に何しようかなーなんて考えながら、玄関の扉を開ける。
途端、目に入る人物。
というか、待ち構えてたようなその様子に一瞬動きが止まってしまった。
「…………」
「おかえり~」
「…た、ただいま…」
ニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべて立ちはだかるのは我が妹、鈴花サマ。
しかも普段使わないような妙に高い声に、はっきり言って嫌な予感しかしない。
「お、お前、部活は?」
「今日は休みだよ~」
「あ、そうなんだ…」
「………」
「……な、なんだよ」
「んふふ、」
「………」
人の顔見てニヤニヤニヤニヤ、こいつ絶対変なこと考えてる…
関わらないに越したことはないと知らんふりでその場を去ろうとする俺に、鈴花はコソッと、それはそれはもうわざとらしく耳打ちしてきた。
「ねえ、稜兄、彼氏変えたの?」
「はっ、はあ…?!」
妹の発想力が凄すぎて、もうなんて言葉を返していいのかわからない。
「見てたよ~。わざわざ傘差してくれるとか優しいじゃん」
「……!!」
「今度の彼氏もカッコいいよね。しかも危険な男っぽいし」
「なっ、違っ!!!」
「稜兄ってば、見かけによらず魔性のオトコだったんだぁ?」
「まっ!?はあッ…!?」
「大丈夫!お母さんには言わないからっ」
「…………」
か、会話が成り立たない…!!
慌てふためく俺に鈴花は構うことなく、頑張れだとか今度は長続きするといいねだとか、ほんと意味がわからない言葉を投げかけてくる。
ああ、もうほんとに誰かこいつを止めてください……!!
「相談くらいなら乗ってあげるからね」
「だ、から…っ、違うってー!!!」
盛大に勘違いしてテンションが上がりきった鈴花の前では、俺の叫びは虚しく響くだけだった。
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