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2、いつもの日常 -裕人-
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「――ということなんだが」
「お兄さんが外に呼び出すから何かと思ったら……でも二人は結婚しているんでしょう?」
「いや、まあ、その、」
結婚、という言葉にどぎまぎしてしまう。この単語にはいつまでも慣れない。
俺は葉月さんに拾われて、何でか気に入られ、ある種勢いで結婚に至った関係だ。
勿論俺は葉月さんのことは嫌いではないし、その勢いに乗せられるまま結婚した訳ではない。(押されはしたが……)
まあその、家にいれば、ほら、まあ、手を触ったりだとか近くに居たりだとか、まあ色々、
恋人ならするよな?ってことはしている。
だから俺の意思はまあ、とにかく流されたわけではないのでそういうことだ。
だが、問題は相手だ。葉月さん。あいつはモテる。本当にモテる。道を往く女性が必ずチラ見するぐらいに顔はいいし、
眼鏡だし、背が俺よりちょっとだけ。ほんのちょっとだけ高いし、眼鏡だし、何より誰にでも敬語で人当たりがいい。
何か服装もお洒落だし、眼鏡だし、とにかくモテる。
俺が女性で社交的だったとしたら確かに声をかけたくなるだろうという人だ。
そんな人が男である俺を選んだ。
優越感?無い。安心感?無い。疑う気はない。ないが、どうしてもあの人こそ
「何となく流れ的に結婚しちゃうか」みたいな感じで今に至ってしまったんじゃないかと不安になってしまう。
勿論人の気持ちを弄ぶような酷い人間じゃないことは分かっているし(傷口に塩は捻じ込んでくるが)
俺のことを本気で考えてくれているのも分かっている。
俺はあの人がいなければ既に死んでいたし、生きていたとしてもこんなに前向きな気持ちになれることなんて無かっただろう。
とても世話になっている命の恩人だからこそ
俺とそのような関係になってしまったことで窮屈な思いをさせているんではないかと
どうしても考えてしまう。
現に俺は社会復帰まではできておらず昼間はパソコンを使わせてもらって趣味を見つけたり
興味のある物の記事を読んだり勉強したり掃除その他の家事をしているだけだ。
飯は作ることができないから帰りを待って軽く手伝うくらい。
衣食住、果ては小遣いまで提供してもらっている男だ。
自立していて社交的でしっかりとした女性がいればそちらに傾いても文句は無い。
俺が思考のループに嵌っていると、俺の唯一の話し相手――弟の裕人は何かを思い出そうと唸っていた。
「うーん、薫さん。どこかで聞いたことがあるんだけど……取材先の方だったか……」
「……会社にいないのか?」
「同じオフィスには居ないはずだよ。全員の顔と名前は覚えているから。」
「………すげえな。」
俺なんてここにいるやつらの顔全員一緒に見えるぞ。
「多分、仕事関係の人だと思うけど……行動が普段と違ったから不安になったんだよね?」
「…何か、言いにくいことなんだろうなとは思うけど。聞いても『何でもない』しか返ってこなかったし」
葉月さんは心を隠すのが上手い。
だから余計あの反応は気になった。あまり焦ったりしない人だから。
会社関係のことならば尚更慌てたりなんかしないはず。〆切が近くても焦っているのを見たことが無い。疲れはしてるけど。
「明日は出勤だし、情報を集めてみるよ。」
「……いや……その。あんまり気にしなくていいぞ。知ってるか聞きたかっただけだからさ」
「僕も気になるからさ。思い出せそうなのに思い出せなくてモヤモヤするんだ。だからそれのついで」
弟は昔から優秀だった。昔は色々あって歪んでしまっていたが今はもうそんな影もない。
人を思いやり人を気遣う言い回しができるというのは素晴らしいことだと思う。
俺はいかに自分が相手の迷惑になっていないかばかりに気をとられてそんなことは到底できない。
「お兄さん、ちゃんと日光浴びてる?何だか蒼白いよ」
「洗濯物干すときは浴びてるぞ」
「数分じゃないか…日光は気持ちも軽くしてくれるから浴びたほうがいいよ!」
人に負担を感じさせない言い回しで頼みたかったことをそれとなく請け負い、且つ自然に話題を変え
人を気遣い追加で豆知識的な物も添えてくれる………
「………葉月さんと同じ臭いがするぞ……」
「え?」
こいつも多分女の子を泣かすんだろう。あらゆる意味で。
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