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魅せられた?
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夏が逝く——
とはよく言ったものだ。
お盆を過ぎると、一日一日が異様に短く感じられた。
それは、都雪くんとの別れの日が近付いていることを意味する。
焦燥感を覚えながらも、俺はどこかでこの日々がずっと続く様な気さえしていた。
そして、それが半ば現実逃避のヤケクソな考えである事にも気付いていた。
その日、ばあさんが近所の法事の手伝いだかで家を空けており、丁度都雪くんも風呂に行っていたため、たまたまじいさんと二人きりになる時間があった。
「なあ、じいちゃん——」
俺は、思い切って切り出した。
「都雪くんのお姉さん、本当に迎えに来るのかな—?」
俺の言葉に頬杖を付きながら、つまらなさそうにテレビを見ていたじいさんが姿勢を起こす。
「なんや?都雪くんがなんか言うとったんか?」
「いや——まあ、都雪くんの事情は聞いたけど、お姉さんのことはなんも…」
「ほうか…まあ、来んっちゅー事はないやろ」
そう言うと、じいさんはまた元の姿勢に戻り、テレビを見始めた。
都雪くんには悪いが、内心、お姉さんが約束の日に来なければいいと俺は思っていた。
だが、じいさんの余裕ある態度を見れば、それはなさそうだ。
「なんだ…ずっとうちに居ればいいのに……」
がっかりが思わず言葉になって漏れ出る。
それに過剰に反応したのはじいさんだった。
「シゲ、お前、魅せられたのと違うやろな!?」
身を乗り出して、凄い剣幕で俺に詰め寄る。
なにをそんなに焦っているのか、詰め寄られた俺まで焦ってしまった。
「はっ!?魅せられた?は!?なんのこと?」
混乱する頭でも"魅せられた"の言葉だけ、やたら強調されて響いたらしい。
俺の質問にじいさんは答えない。
怖い顔で俺の目を見据えてくるから、目を逸らす事も出来ずただ戸惑うばかりだ。
暫くすると、じいさんは溜まっていた息をはあと吐き出し、
「ま、うちのもんは大丈夫やろ」
と、勝手に納得して、テレビに戻ってしまった。
これがみーちゃんの言ってた大丈夫と同じ意味なのだろうと、なんとなく思う。
だが"魅せられた"の件に関しては、あまり納得いっていない。
さらに深く聞いて見ようとも思うが、多分、答えてはくれないのだろう。
じいさんがみーちゃんみたいに見える人なのかどうかはわからないが、何故この類の人間は、勿体ぶると言うか、話を曖昧に隠すのだろう。
「なあ、じいちゃん…」
ならばと、俺は別の視点から攻めてみようと考えた。
「じいちゃんは、見える人なの?」
結構、思い切って聞いたつもりだが、じいさんに動じた様子はなかった。
「いんや。お前は?」
「俺も、全く…」
「ほうか…そんなら、そのほうがええっちゃ」
その後、じいさんは、また黙り込んでしまった。
間も無く都雪くんが風呂から上がって来て、合流したから、俺はそれ以上聞けなかった。
だが、都雪くんが席について少し経った時に、じいさんが小さく口を開いた。
「もしかすると、姉さんはだめかも知れん。そうなったら、都雪くんは、まだ暫くうちに居ることになるやろ」
まるで独り言の様な呟きは、俺に言ったのか、都雪くんに言ったのかはわからない。
ほぼ反射的に都雪くんを確認すると、最近見なかったあの無表情で俯いていた。
どんな顔をしていいのかわからないのだろう。
俺も、どんな顔をしていいのかわからなかった。
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