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アルバムをなぞる指先の決断45
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緋色「…そのフレンチトースト、泣くほど不味いの?」
緋色はごく自然に、僕の向かいの席に座る。
言ってる言葉と、聞きたいことの内容が全く違うのは、顔を見れば分かる。緋色が言いたいのは、フレンチトーストの話ではない。
マキ「泣いてないし。フレンチトーストはすっごく美味しいですぅ。勝手に座らないでよ」
緋色「ん?空いてるから良いでしょ」
断言して、食えない顔で飄々と笑う。
緋色さんはいつも、何考えてるか全くつかめない。
マキ「空いてない」
緋色「マキちゃん今1人でしょ?伝票に1名って書いてあるし、お店混んでるから相席ww。すいませーん、コーヒーくださーい」
丸まってる伝票までちゃっかり確認済みの観察力。そして有無を言わさず注文して居座る。
神さんが事故にあったと知った時、新幹線に乗るのを手伝ってもらったのは感謝してるけど、今はこういう察するタイプの人と一緒にいたくない。
さっさと帰ろうと僕がフレンチトーストを口に詰め込もうとしたら、緋色さんは、呆れたようにため息ついた。
緋色「そんな詰め込んだら喉に詰まるよ、慌てない慌てない」
僕用に置いてあったお冷を、僕に進めて来た。
そんな些細なことなのに、神さんと知り合ったばかりの頃、似たようなことがあったのを思い出してしまった。その時迷惑がってたのは、僕じゃなくて神さんだったけど…
緋色「彼氏とうまくいってないの?やっぱ同性の恋人が記憶喪失って厳しいよな」
マキ「!?」
緋色さんの言葉に驚いた。
僕は恋人が入院したとは言ったが、記憶喪失とは言ってない、そこまで話してないのになんで…
緋色「奏一さんから聞いた。奏一さんにちゃんと相談したんだろ、偉かったね。その代わり俺が黙ってたのバレちゃって激怒られたけど、シクシク」
マキ「えっ…ぁ…、ごめんなさい…、でもなんで?僕、緋色さんのこと言ってないのに…」
緋色「相手は奏一さんだぜ!それに、彩さん出てきちゃったらもう隠し事とか無理だから。奏一さんだけでも無理なのに、彩さん出てきちゃったらおしまいだよ。争うだけ無駄」
緋色さんは、オーバーなくらい悲痛に嘆いて、テーブルに突っ伏した。
マキ「…彩さんってそんな凄いの?」
緋色さんは彩さんに詳しいのかな?
あの人、喋ってても全く何企んでるか分からないし、人柄も謎すぎる。でも奏一さんが絶対的信頼を置いてるのを考えると、いい人なんだろうけど…。なんだろう…、あの人を前にすると圧がすごくて逆らえない、優しい笑顔の裏にある絶対的魔王感というか…、ニコニコしながら虎視眈々と狙う肉食系の雰囲気というか…、羊の皮を被った頭脳派狼?。羊を食べるにも、「嚙みつくなんて野蛮なことしません、自分から寝転がって食べてくださいって言わせますよ」的な絵を想像出来ちゃうんだけど、その羊役が奏一さんっていうのが…なんだか怖い…。
奏一さんには幸せになってもらいたいんだけど…。
彩さんが奏一さんに気があるのは確実なんだけど、奏一さん修二のこと吹っ切れてないから、男同士は相当難しいと思うんだけど…。彩さんが奏一さんとどんな関係を望んでるかまでは分からない…。ただ、奏一さんの反応からすると、アプローチされてるのは確実なんだけどな…。
あぁ…羊な奏一さん…なんだかんだニコニコ美味しく食べられちゃいそうで怖い…。
緋色「彩さんに逆らうやつなんかいないよ。あの人あのルックスであの頭に話術、頭脳明晰才色兼備。めっちゃ強いんだぜ。って言っても、喧嘩がってことじゃなくて、こう、かわしてから優しい顔して容赦無く締め上げる。みたいな」
マキ「あぁ…、わかる…」
あぁ、やっぱダメだ、懐柔されて食べられちゃうよ…
奏一さん負けないで!
彩さんと対面しててずっと感じてた。
あの人には隙がない。優雅な立ち振る舞い、上品さの中に、鋭く光るものを隠し持ってそうな…、至近距離でも遠距離でも、彼のテリトリー内のような気がしてた。
緋色「落ち着くまでマキちゃんにちょっかい出すなって接近禁止命令まで言い渡された俺超可哀想だろ」
泣き真似する緋色さんは、あっさり命令違反してる。
マキ「接近禁止どころか接触中では?」
緋色「奏一さんは自分がマキちゃんに会えてなかったからて俺に嫉妬してるんだよ。」
マキ「え?」
緋色「今だってマキちゃんに会いに行きたいのすっごい我慢しててさ、マキちゃんが奏一さんより先に俺に相談したのすっげーショックだったみたいで、修二が家を出た時と同じくらい落ち込んじゃってて笑えるの。それに、マキちゃんに会うの断られたから相当きてるみたいだよw」
マキ「えっ、断ってなんか……ぁっ」
そういえば、谷崎さんの連絡先聞いた時、神くんが家にいたから今は無理って言ったかも…、結局、奏一さんに押し切られて10分だけ会ったけど…
緋色「断ったろ?だから奏一さん、マキちゃんに連絡するの躊躇っててさ。彩さんにマキちゃんのこと聞きまくってるし、携帯握りしめながら『顔に見に行ったらまずいかな?まずいよな…、俺が会いに行ったらややこしくなるだろうし』ってブツブツ念仏唱えちゃ、彩さんに『今は大人しくしてなさい』って宥められてるよ」
マキ「うっ…」
僕のせいだ。
僕が、神さんを奏一さんと修二に会わせたくないなんて思ったから…
緋色「奏一さんと彩さんのああいうやりとり、修二が大学生になるまではしょっちゅうだったから、なんか笑えるんだよね。修二が大学生になって一人暮らし始めてからは、少し落ち着いてきてたんだけど、今はマキちゃんのことばっかだよ。彩さんがやっと弟離れできたと思ったらって呆れてた」
…うぅ、それに関しては、非常に申し訳ない…。
緋色「まぁ、奏一さんがそういう子供っぽいこと言うの彩さんの前だけだから、仕方ないよね」
マキ「緋色さんは、いつから彩さんと知り合いなの?」
緋色「んー、結構前からだよ。ってか、朱雀入る前に出入りしてた時からだから、8年前くらい?もっとだったかな?確か修二が……ッ」
!?。
緋色「あー…正確なのは忘れちゃったな、だって彩さんいつの間にか奏一さんと仲良くなってたし、俺が朱雀入る前だったから」
とぼけた。
明らかに何か思い当たった筈なのに、口元が強張って言葉を飲み込んだ。
緋色さんは、神さんが修二に危害を加えて朱雀を除名されたのを知ってる。しかも、リアルタイムでその場にいた可能性もある。
ただ、修二が本当はどんな仕打ちを受けたのか知ってる人なのか?…
緋色さんのお兄さんのタカさんは、監禁された修二を救出した現場に居たのは分かってる。ってことは、弟の緋色さんもその場にいた可能性は高い…。
…。
でも、その頃から彩さんと知り合いなら、彩さんがどんな人なのか、それに、彩さんと奏一さんがどんな感じなのか知ってるってことだ…。
奏一さんの為にも、彩さんがどんな人なのか情報集めないと…
マキ「緋色さん、彩さんって…」
店員「失礼します。コーヒーお待たせしました」
年配の女性店員がコーヒーを運んできた。
緋色さんは、この店員さんと知り合いなのか、「ありがとうミドリさん」と名札もないのに名前を呼んだ。
接客の表情から砕けた笑顔になった店員さんは、コーヒーの後に、ビニール袋を緋色さんに渡す。
店員「はい、店長から…」
緋色「ありがとうございます!」
店員さんが「どういたしまして」と言いながら、カウンターに戻って行った。緋色さんが渡されたのは、普通のスーパーでもらう白っぽい袋の中に、緑色と赤いものが入ってる。
マキ「何それ」
緋色「これ?野菜の捨てちゃうところ分けてもらってんだ。今フェネック預かっててさ」
マキ「フェネック!?」
こないだは大きなハウスキー犬を連れてたのに、今度はフェネック!?
緋色「見る?」
驚いてる僕に、緋色さんは携帯を取り出してフェネックの写メを見せてくれた。
マキ「わぁあ何この子ぉー♡、フワッフワでキャワイイ♪」
僕の反応に笑った緋色さんは、熱々のコーヒーを少し急ぎ目で飲みだした。
緋色「こないだきてくれた個展あるだろう?あそこのビルのオーナーが飼ってんだけど、今旅行中でさ、俺が預かってんの。マキちゃんに見せたげるよ、おいで」
熱いコーヒーを急いで飲み干したと思ったら、緋色さんは僕の手を掴み、ついでに伝票も持って、立ち上がる。
マキ「えっ…ちょっ…」
緋色「聞きたいことあるんでしょ、人目があると聞きづらいことだろ」
またまた断言する緋色さんは、ボクシングをやってた筋肉ムキムキの腕で、僕を連れ出した。
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